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2021/05/08 読書のこと

 

 「ときに世界は、虚構に埋め尽くされる」

 

  わたしは読書が好きだ。でもそれと同時に、わたしは読書が苦手だ。

 読書をするとき、わたしはわたし以外の誰かになる。そうならざる負えなくなる。わたしは自分を手放して、誰かの語りと同化していく。夢中になればなるほど、それは深まる深度で、自分の意識が自分ではない何者かに譲渡されることを、ある瞬間発見する。

 その感触が、とてつもなく気持ち悪い。

 文字列の隙間に腕を引っ張られ、終いにはスピンと共に閉じられてしまうのだと、そんな妄想が鳴り止まない。だからわたしは、読書が苦手だ。虚構の世界が、わたしたちを侵略する。その可能性を一目見てしまえば。

 けれどやっぱり、わたしは読書が好きだ。

 未知の世界を提示してくれる仲介者の存在によって、わたしはあらゆる経験をし、旅をする。リアルな座標から離れて、心は連れ去られる、登場人物たちの声に寄り添いながら、あたかも共に在るふりをする。無意識の演者となって、わたしをわたしから引き離す、読書のそんな側面を嫌いにはなれない。

 本を読むことは、日常とは別の文脈へと潜り込むこと、つまり潜水だ。そこにはまだ、わたしたちの知らない可能性が潜んでいるかもしれない。

 

「ほんのひととき、楽しみたいね」

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