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ムサビ授業11:一流デザイナーの思考法(大阪芸大 三木健教授)

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第11回(2021/09/20)
ゲスト講師:三木 健さん

◆「クリエイティブリーダーシップ特論(=CL特論)」とは?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで開講されている授業の1つです。
「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」を目的に、社会で活躍されている方の話を聞き、受講生が各自な視点から考えを深める講義となっております。

◆注記
この記事は、大学院の講義の一環として書かれたものです。学術目的で書き記すものであり、記載している内容はあくまでも個人的な見解であります。筆者が所属する組織・企業の見解を代表するものではございません。

大阪芸術大学教授:三木 健さん

CL特論の授業は教授持ち回りで行われるため、呼ばれるゲストが多岐にわたって面白いです。「デザインプロジェクトの進め方」のような実践的な話もあれば、「ソーシャルデザイン」といったデザインの国際的潮流の話もあれば、「生きるとは?」のような哲学的な話もあり、とてもバラエティに富んでいます。

今回は美大らしいテーマとなりました。スピーカーは大阪芸術大学教授で、著名なデザイナーでもある三木健さんです。なお、本講演の内容はyoutubeでも見ることができます。

私にとってタイムリーな話題であり、一端の美大生としてセンスのなさを痛感する身としては、改めてデザインの深さについて教授された気分になりました。

また、三木さんが考案されたデザインの教育メソッド「APPLE」は国際的に普及しており、授業を受けたいとも思える先生です。本題から外れるので深くは立ち入りませんが、こちらも記事や動画で面白さがわかってもらえると思います。

構想の方法、新たな発想の組み立て方

冒頭、「APPLE」は他の場でも語っているからという断りの後に、発想方法について語りたいと仰った三木さん。

コミュニケーションの合間の中で、自分の中にある経験値から相手の課題をいかに理解をするか。クライアントワークなら打合せが終わるまでに方向性を固めるようにしている、という仕事術を語ります。

その根幹にあるのは「話すようにデザインをする」こと。

「話すデザイン」
物事には必ずコンセプトがあるが、人によっては伝える手段を持っていない(言語化できていない)という場面がある。一見関係ない話の中でも、エッセンシャルな部分をつむぎ、そこからストーリーを作ることができる。

つまり、余談の中でも実は発想の種が含まれていて、それを上手に拾っていくことでコンセプトの解像度を上げ、その後の造形物のクオリティを上げることができるということ。

「聞くデザイン」

庭造りで「借景」しゃっけいという言葉があるように、相手の頭の中にあるものを借りることが重要。これを三木さんは「借脳」しゃくのうと呼んでいるそう。

話を聞いている中でも五感をフル回転させ、他人の知識からアイデアの強度を上げていく。対話で感じたこと、気付いたことからセレンディピティ(幸運な偶然)を導き、それをもとにコンセプト作りする。

理念作りにおける3つの必須要素

「話すようにデザインをする」に加え、理念作りにおいて欠かせない3つの要素を強調します。

①心づくり(Mind Identity)
 :理念を分かりやすく成文化して社内外に浸透させること。
②顔づくり(Visual Identity)
 :理念から導かれる造形のこと(心の在り方が顔に現れてくること)。
③体作り(Behavior Identity)
 :理念から広がる具体的な活動や方針のこと。

すなわち、理念作りにおいては、哲学や思想のもとに価値のある生き方を示し、その活動に共感してもらうことが重要になるということであり、何れが欠けてもブランディングにならないということです。

普段社会人として目にする光景
・経営層の理念だけが上滑りしている組織
・ただ綺麗なだけの上辺 うわべの造形
・目先の活動に追われ理念を忘れる現場 etc..

3つ全てが噛み合ってこそ意味のある理念になるというのは非常に納得ができる内容です。

デザインの際の思考プロセス

今回の話の中で最も参考になったのは思考プロセスの体系です。

「気づきに気づくステップ」という表現がされていましたが、まがりなりにも私が普段デザインを試みる中で、漠然と感じていたことを言語化して出していただいた気がしました。

それは6つによって成り立ちます。
①理解(ここが疎かなケースが多い)
②観察(知ってるつもりが危険)
③想像(仮説を立てる)
④分解(再構築する)
⑤編集(物語化する)
⑥可視化(理念が動き出す)

最もユニークなのは、「④分解」が仮説の後にあることでしょう。

「コンセプトを絵にした後に突っ走ってしまうことがある。そのために立ち止まって(アイデア)分解することが重要」というのは三木さんの言葉ですが、いつも時間的な余裕が無くなって最後まで進んでしまう自分としては他人事に思えない話でした。

逆に言えば、後半の工程で「分解」ができることが一流たらしめている理由なんじゃないかと思いました。鉄を鍛えるように、納得のいくものにするためにアイデアの強度を上げ続けるのは頭でも分かっても、実務において限られた時間でそれをやるのは相当勇気が要ることです。

【Works】 The Earth(1994)

三木デザイン事務所の名刺。立体物になる。キューブ状の地球に、事務所の経度・緯度が引かれ、「私はここにいる」という紹介になる。

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http://ken-miki.net/portfolio-noflash?pf_name=the-earth-2

【Works】 Nouveau Coffee(1988)

事務所を立ち上げて最初の仕事。コーヒーを共和国に見立ててシンボライズした作品。

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http://ken-miki.net/portfolio-noflash?pf_name=nouveau-coffee

【Works】 コシノヒロコ展(2021)

一番最近の仕事。アーカイブではない「未来へ」の展覧館を企画した。

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展示場はオノマトペのイメージをもとに彩られる。

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印象的だった話(質疑応答)

Q. 三木さんがやってきた活動でぶれない部分とは。
A. ブランディングなんて言葉がない時代からデザインをやってきた。それ以前に「デザインポリシー」という言葉があり、バブル期に「CI (Corporate Identity )」という言葉が生まれ、マークだけを作り替えるデザインには疑問を持っていた。通じて、商品開発を進めるうえで、語れる物作りにするということを考えいる。
 昨今、パーパスブランディングという言葉が出てきた。ターゲットになる人々以外にも理念を語る必要があるということ。企業や地域社会と「共育ち」できることを意識している。

Q.クライアントワークにおいては理念を作ることは難しいのではないか。
A. クライアントの中には必ず理念がある。理念がない物作りをする人なんていない。言葉で短く表現できなかったり、表現手法を知らないだけ。デザインを通じて、コーヒーを濾紙で掬い取っているようなイメージ。
 依頼主のある仕事の場合は、いかに相手のことを理解するかが重要。相手のことを理解することで、何が言いたいかが見えてくる。その後は観察。リサーチ、直感的リサーチを重視している。
 その次に想像。「あったらいいな」を作る。仮説が怖い。言葉やビジュアル化すると元に戻るのが怖くなる。
 戻る勇気をもつのが重要。だから分解というプロセスを入れている。再編集する勇気を持つということ。ほとんどのケースでは部分的に分解する。
その過程で「これでいける」となったら編集する。ストーリー化。最後にビジュアルに落とす。

Q.理念はあるが表現の仕方や一言で表すことが難しい。造形として多くの人と共有できるものにする、もしくは「身体づくり」を実践していく中で重要な部分はどのような点か?
A.届ける人が笑ってもらえることをいつも考えている。小学生くらいのときからずっと考えている。目の前の人を単に楽しませるだけではなく、周りの人に「こんなことをされた」と自慢したくなるようなことを考える。

クリエイティブリーダーシップとは?
~スタンダードを先取りすること~

「理念(コンセプト)の重要性」、「ブランディング」「セレンディピティ」、、

言葉尻だけをなぞれば、近年のビジネスで頻繁に言われていることが、改めて出てきているようですが、重要なのは方法論を自ら編み出していることかと思います。

実践の上に形式化しているために実績を持って語れ、何より教育メソッドとして、人に教えるに足る説得力があります。

三木さんは一流のデザイナーだと思いますが、一流とは自らの方法論を流儀として体系化し、後人に受け継いでいくものなのだと考えました。

今ではスタンダードになっていることを何十年前から実践しており、一貫している。最後に事務所の「8則」が語られましたが幹がしっかりとしており、噛み締めていきたい内容です。

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