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社会人が「経済」を考えるために美大に入った話

はじめまして。私は社会人として働きながら、2021年春から武蔵美の大学院に通っています。この研究科の正式名称は「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース」と言い、いわゆる「BTC型人材」を育てるためにできた新しい学科です。https://ci.musabi.ac.jp/graduate/overview

noteを始めた直接のきっかけは、授業の課題で求められたからなのですが、淡々と記事を増やすのも味気ないので、最初の投稿は自己紹介にしたいと思います。

1人で色々と考える子ども

私は平成が始まって間もない頃に東京で生まれ、(自分で言うのも奇妙ですが)何一つ不自由なく育てられました。兄と姉がおり、2人の後を追うように小・中・高を桐朋学園という学校に通うことになります。桐朋というと、小澤征爾さんをイメージされる方も多く、音楽大学が有名ですが、実は普通科もあります。

中高は一応の進学校で、ほぼ全員が当たり前のように大学進学する環境でした。今は分かりませんが、偏差値の高い大学に行くために高3の半数が浪人すると聞かされたこともあります。親が教育熱心だったことも手伝い、私もその状況に疑問を持たず大学受験に励むことになります。

変わった話だと、中1から高3までを「鉄緑会」という東大専門塾に通っていました。この塾自体、聞き馴染みのない方が多いと思うのですが、名だたる進学校しか入塾が認められず(東京で言えば、開成や筑駒、桜蔭など。当時は桐朋も指定校でした)、在籍者の50%以上が現役で東大に進学するという謎の教育機関です。

実際、当時の友達は外交官や医者になって活躍しているので、エリートの集まりだったのは違いないのですが、私はあまり勉強をせず、何となく6年続けていたという感じです。勉強をするのではなく、勉強をする意味について深く考え、周りに呆れられていました(ただ、説得力はあったらしく、"啓蒙"された友達はメキメキと成績を上げていました)。

何の因果か、いま美大に入ってみると、自分が何が好きかで進路選択していたらどうなっていたんだろうと思います。当時は、なんとなく自分に自信がなく、「すごく好き」というものもなかったので、「何となく潰しがきく」勉強で時間を埋めていたのです。

一方、大学入試で避けては通れない「暗記」という行為に全く意味を見出せず、それが最後まで足を引っ張ることになります。斜に構えていたことの罰か、ジャスト1点差で東大文Ⅰに落ち、慶應の経済学部に進みました。

大学でデータ分析に没頭して、至った境地

不本意ながらも経済学部に入って良かったのは、定量化とデータ分析の基本が身に着いたことです。特に応用ミクロ経済学(≒統計学)に入れ込み、ノートPCに統計ソフトを入れて、電車の中でもデータをいじっていた時期もあります。どうやって人間の行動を数値にして、仮説を検証するかという経験はその後の様々な場面で役立ちました。

ゼミで何本か論文も書く機会も与えてもらえ、スキルとしても上がっていったのですが、先行研究を知れば知るほど、客観性が担保できそうな定量的な法則定立的なアプローチも、結局は「人間次第」なんじゃないかと思うに至り、以後の信条になりました。仮説をどのように設定するか、何を単位に測るか、どれくらいの差が出たら意味があると認めるかは結局のところ人のセンス(感性)次第です。

社会的な手続きとして数値で表す必要はあれど、それはあくまで模造の世界であって、真に人間的なものは形容しがたい感性的なものの内にあるというのが、私のパースペクティブです。

『星の王子さま』に「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」という一節があるのですが、これこそ本質をついているなぁと思います。

『星の王子様』(サン=テグジュペリ)

感性的なものが数値で表せるのかというは大きな関心事で、卒業論文のテーマも『日本における社会貢献と幸福度の実証研究』という題で書きました。「幸福とは何か」はずっと考えていたことですが、「みんな違って、みんないい」の相対主義に陥るのではなく、ビッグデータから論理を積み上げれば何が実証できるかということに焦点を当ててみたのです。

学部生の研究ですから、結論自体は珍しいものではなく、「所得が増えても幸福度は比例的に増加しない。むしろ人間関係といった社会的な要因が幸福度に大きく影響される」いう趣旨だったと記憶していますが、先の『星の王子さま』でも似たような一節があり、学部の優秀論文に選ばれたことで印象に残る仕事になりました。

周囲が「生涯年収」を話題に就活に奔走する中、「結局、人生金じゃない」ということを言っているのは、皮肉な出来事だったと思います。

就活の不思議

就活の時期って不思議なもので、サークルとかゼミとかで個性的だった友達も、いざ「シュウカツ」となると型に嵌ったように黒髪に戻し、リクルートスーツを着て説明会やら、インターンやら選考やらに参加します。

自己分析を繰り返しながら、一方で個性を削る(画一化する)、というのも奇妙な話ですが、学生の立場でその場に入ると、強い同調圧力のようなものを受け、そうせざるをえない大きな圧力を肌で感じました。

どのコミュニティでも内定を取るために情報交換をしながら「攻略」していくわけですが、経済学部が保守的だったのか、旧財閥系とかメガバンクとか商社とか、誰しもが知っている大企業を目指す人が多かったです。

野心をもって起業や零細ベンチャーを選ぶ人もいたのでしょうが、自分の知っている限りでは、示し合わせたように、「安定がどうとか、福利厚生がどうとか、年収がどうとか」って話がされていた気がします。

私の場合、アベノミクス景気が来そう(社会に出るには良いタイミング)だったのと、いつまでも親の脛をかじりたくないという現実的な理由から、就職の道を選びました。志望していた業界はコンサルやシンクタンクです。

自分の悪い癖が出て、就活なのか院進なのか中途半端にしていたために動き出しが遅く、外資系や大手の選考は終わっている状況でした。教授の推薦で海外の大学院に行こうとも企てていたのと、面接で将来性を判断するという選考方式にも疑問を覚えていたので、総合系のコンサル会社から内定が出次第さっさと就活を終えました。

今でこそ東大生にも人気のコンサル業界になっていますが、当時はそこまで認知度はない感じで、そもそもコンサルを見ている時点で、周りの学生からは浮いていたと言われました。自分が選んだ道ではありますが、知り合いが広告代理店や総合商社、メガバンに内定を決め、途端に周りからモテるのを見るのは悔しかったです。

仕事を選んだ軸は、今後大企業もどうなるか分からないし肩書がなくなっても生活ができるようなスキルを身に付けたい、ということだけだった気がします。その後、目に見えて終身雇用が崩れているのを見る限り、このときの選択は奏功したようです。

社会人になってから

2014年春から新卒で社会人になったのですが、先述のように「2-3年やってお金が貯まったら大学院に行こう」位のことを思っていました。結局、入社直後から大企業をクライアントにしたプロジェクトに関わらせてもらい、仕事にやりがいを感じ、7年以上会社勤めを続けることになりました。人生は分からないものです。

コンサルって厳しい業界ではあり、新卒も中途も平均2-3年で辞めていくような仕事なのですが、それなりに長く続けているということもあり、いまや管理職として部下の育成や、経営と現場の板挟みになる役を与えられています。

少し具体に触れると、私が専門にしているのは、新規事業開発(BizDev) とテクノロジー連携(AI, IoT, 3D技術等)で、直近でも自動車会社でデジタルサービスの開発プロジェクトでPMをやらせてもらっていました。VUCAと呼ばれる時代において、新しい事業を作る場面に立ち合い、形にするのがモチベーションになっています。

コンサル業界も過渡期にあります。口だけ動かすような働き方だと、机上の空論をこねているだけだと批判されてしまいます。絵に餅を描いて終わりにならないように、企画する段階においても実装に詳しくなければならず(なんなら、自分でプロトが作れるくらいが望ましい)、半年程度AIスタートアップで機械学習の修行をさせてもらっていたこともありました。

最近では、実務としてやることはほぼなくなってしまいましたが、Deep Learningのエンジニア資格を取ったり、Kaggle(機械学習のモデルの性能を争うコンペ)でメダルを取ったりと、コンサルの中ではデータサイエンスに精通している部類にいるかと思います。

ちなみに、本業はコンサルとしつつも、別の仕事もしています。縁あって、2019年からスタートアップの社外取締役のオファーをいただき、それを兼務しているという感じです。こちらは、最近マザーズ(現グロース)市場に上場することができました。日本における社外取締役のロールモデルというのは色々な考え方があり、漠然としたことも言われる中で、責任を果たすべく様々なテーマで頭を悩ませているという今日この頃です。

時代の大きなうねりの中で考えること

言葉にするとチープですが、最近時代が変わっていると感じることが増えました。それは、テクノロジーの進歩に起因したこともありますし、社会の価値観が多様化していることもあるのですが、確実に言えるのは、今までの成功パターンが通用しなくなってきている、ということかと思います。

コンサルという仕事をする中でも、案件の性質やアプローチの仕方、協業の考え方でも、今までのフレームワークが通用することはなくなってきているなぁ、というのが実感としてあります。実際に手を動かしてみないと分からないことが増えているので、口より手が動かせる人が必要とされるというのも感じます。

企業活動も時代の変化とは無縁でいられず、今の大企業にはある種のパラレルワールドが発生していると思います。つまり、
①今までの成功パターンが通用し、ルーティンを回し続けていればいい世界
②もはや非効率この上ないから、そもそもの前提から考え直すべき世界
の2つが併存しているということです。

例えば「ジャマおじ」と呼ばれるおじさんは①しか見ない人ですし、逆に「AIですべての仕事が機械化できる」と言う人は②だけしか見えていない人とも思え、良い悪いじゃなく、置かれた環境で見え方が変わる状況になっている、というのが私の見立てになります。

そして、人によって見ている世界が違い、プロトコルが合わないのでよく衝突するわけですが、一歩引いて見ればどちらも正しいと捉えられます。結局、両方の視点を理解し、コンテクストに合わせて使い分けていく必要があるでしょう。

なんで、私がムサビに!?

今ひしひしと感じるのは、ビジネス側面とエンジニアリング領域(実装部分)だけではなく、クリエイティブ(構想+造形)領域が不可欠ということです。

今や、ビジョン・デザイン、ソーシャル・デザイン、サービス・デザインといった領域は、特定の企業に閉じたものではなく、社会全体に必要となってきているでしょう。

BTC(Business×Technology×Creative)の概念も、それに呼応する形で現れたわけですが、自分の経験上、それぞれの仕事の進め方は全く異なっているので、営業とエンジニアや、経営企画とデザイナーのような領域間での衝突が起き、プロジェクトが円滑に進まない例も散見されます。

私はコンサルという立場ではありますが、プレイヤーとしてはクライアント企業の一員として泥臭い部分を担うことが多く、部署間の間に入って、事業開発を推進するという役回りが多くなってきました。

直近でも自分が現場で汗をかいたサービスがグッドデザイン賞を受賞したのですが、この3つの組み合わせが上手く働いていたと分析しています。そして、間違いなくこれからは、BTCの領域間を「越境」あるいは「翻訳」する役回りが必要となります。

実のところ、思い切って美大に入ったのは、これらのことを腰を据えて体系的に習熟したい、という思いが強くなったというのが大きな理由です。否が応でもクリエイター的な文化に浸ることになるので、自分に欠けている「C」の要素を拡充したいと思っています。

「経済」を例にした人間の活動の意味という関心事

また、最近特に注目しているテーマとして「非物質的なものの価値」があります。デジタルで構築されたもの(Ex. ゲームのアイテム, NFTアート, ….)なんて、物質的な価値が0に等しいのに、それに大金を投じる人がいるのか、というのに興味を惹かれているのです。

経済学では、マクロ的な生産曲線のモデルと、ミクロ的な消費者の効用を高めるというモデルがあります。そして、これらの前提には「物質的なモノ」が前提に置かれていると思われます。

平たく言えば、モノを生産するには単位当たりの費用が必要で予算制約が生じるよねという話と、消費者がモノを手に入れると効用(≒幸福度)は単位当たりに増加するよねという話です。

(参考)ミクロ経済学における収穫逓減の法則

しかし、デジタルのモノの場合、生産に対する限界費用がほぼ0であるので、制限なく生産活動が発生し、消費者にとって効用だけが得られる状態が発生しかねません。その反面、物質的な価値が0なものに、意味を見出して高額のお金を投じ(その行動から効用を得る)みたいな現象が発生しており、両者が不安定なバランスを取っているのが現代だと思います。

これは経済的な意義はもちろん、社会的・文化的な意義も大きい気がしており、ビジネス的な側面だけではなく、大上段から何が起きているのかを研究してみたいと考えています。

期せずして「経済」というテーマに戻ってきてしまったのですが、大学院では短期間のスキルアップではなく、一定の研究活動が必要になるので、
・今後のあるべき社会像を考えるということ
・それを研究で終わらせず、実装する
の大きな視点も意識することができると考えられます。

後者の実装する(造形)という文脈では、特に美大という場はうってつけだと思っています。今後、社会人大学院生として忙しい生活になりそうですが、必死になって付いていきたいです。

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長くなってしまったので、今日はここまでにします。
読んでいただきありがとうございました。
2021年4月

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