ムサビ授業6:「企業」としてのteamLab
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第6回(2021/05/17)
ゲスト講師:堺大輔さん
◆「クリエイティブリーダーシップ特論(=CL特論)」とは?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで開講されている授業の1つです。
「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」を目的に、社会で活躍されている方の話を聞き、受講生が各自な視点から考えを深める講義となっております。
◆注記
この記事は、大学院の講義の一環として書かれたものです。学術目的で書き記すものであり、記載している内容はあくまでも個人的な見解であります。筆者が所属する組織・企業の見解を代表するものではございません。
アーティストとしての「teamLab」
今回のゲストはteamLabの堺さんです。teamLab自体はもはや説明するまでもないというか、「teamLab」というアートのカテゴリーを作っている人たちと言っても過言ではないでしょう。ピンとこない人も、ビジュアルを見れば、すぐにどんな作品を作っている団体か分かると思います。
デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されている「ウルトラテクノロジスト集団」であり、アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を越えて、集団的創造をコンセプトに活動しています。
筆者は、代表の猪子さんが発信している内容をフォローしているのですが、未来について構想するときの視点や、造形の上で社会的意義を考えている辺りが、正にアーティストだなと感心します。今回の本筋ではありませんが、最近の落合陽一との対談も面白かったので、おすすめです。
企業としてのteamLab① ~事業領域はアートだけではない~
堺さんはteamLabの創業メンバーで取締役を務められており、デジタルソリューション(資料の下の部分)を管轄されています。
同社を企業としてみた場合、クライアントからの受託を受けてシステム開発をしているという顔があります。最近でも、チケットシステムの導入事例の記事が公開されました。
本格的なアートをやり、なおかつITベンダーのような仕事もしているというのは珍しい業態かと思います。国際的な知名度も十分なので、アートだけに絞ってもビジネスとして成立しそうです。
堺さんが話されていた内容が面白く、「結果的にシステムをやっていたことで、デジタルアートの保守・運用に生かせている」ということでした。言い換えると、システム受託をやっていた経験が幸いして、大規模なアート作品も扱えるようになったということです。
現在在籍するメンバーは全体で約700名だが、そのうちの約7割がエンジニアです。多くのメンバーが、クライアントワーク、いわゆる受託制作を担当している。
デジタルアートとデジタルソリューションのシナジーを考えていたわけではなく、なんせ生き残った方がいい、というスタンスだった。
未来は分からない。ベストを出し続けたということ。
結果的に、シナジーはあった。アート側も規模が大きくなってきた。常設なので保守・運用も必要。例えば、Borderlessの裏側では500台くらいサーバーが動いている。
その管理はソリューション側をやっていたこそ。大規模開発には何が重要ということも学んだし、保守・運用の経験もできた。
企業としてのteamLab➁ ~カタリスト(触媒)の配置~
全くの偶然なのですが、筆者がコンサルの仕事をしている際に、デジタルサービスを開発するプロジェクトがあり、ベンダ選定のときにteamLab社から話を聞くことがありました。
詳しい話は書けないのですが、提案をいただくことになり、プレゼンの際に「ビジネス的にもしっかりとしている(プロジェクトの進め方や成果物まで、フォーマットが決まっている)」という印象を持ちました。
特に記憶に残っているのが、プロジェクトメンバーに「カタリスト」という役割を入れることを重要視していた点です。
この役割は、プロジェクトを横串で見ながら、ビジネスとテクノロジーと顧客体験の最適解を探っていく役割です(下の記事にも詳しいです)。
組織図のないチームラボを縦横無尽に走り回る堺氏の役割は、「カタリスト」である。
カタリストは「触媒」「促進の働きをするもの」という意味。モノづくりをするメンバーたちのクリエイティビティを最大化するために動き、その環境を整える。
「当初は、エンジニアとデザイナーさえいれば、何でもできると思っていました。しかし、ビジネスとしてアウトプットをきちんと出していくには、スケジュールや予算を考慮し、クオリティとのバランスを取るなど複雑な問題が発生します。それらを調整し、解決しながら、エンジニアやデザイナーが集中できるようにしていかなければならない」
カタリストはディレクターではなく、指示をする立場ではありません。翻訳家のようにプロジェクトの様々な役割の人たちの間に立ち、やんわりと全体最適を狙っていくような働きをします。
こうした役割自体は古くからあり、一流のPM/PMOであれば、自ずとやっていた役回りではありますが、必要な役割として切り出して定義している事例はあまり見ません。
確かに、DX系のプロジェクトでは、エンジニアも手を動かしてみないと分からないということも多く、全体俯瞰する人はそういった前提条件を正しく理解しておく必要があります。
また、プロジェクトである以上、必ずQCDが問われるので、ビジネス的な仕切りができる必要もあります。そして、当然のことですが、顧客視点でシステムを作るデザインすべきという基本姿勢を持つ必要があります。
「カタリスト」を明示的に置くことで、teamLabはこのようなスタンスを明示的に表しているのです。
蛇足になりますが、DX系のプロジェクトでありがちなのが、「"IT"を"DX"に置き換えただけでやってしまう」という事例で、不確実性が高い状態なのに、ウォーターフォールでフェーズの成果物を決めて進めようとするというケースです。
コンサルとして現場に出ると、そうなってしまう理由もよくわかります。
マネジメント層が管理手法をそれしか知らないし、社内的なプロセスもウォーターフォールを前提にデザインされているからです。
ある種、プロジェクトの外部環境が原因であり、当座はどうしようもないことが多いです。そのときに求められるアプローチは(元も子もないのですが)、「全体俯瞰できる人が上手いことやる」ということで、正にカタリスト的な役割を果たすことになります。
PMOより一歩進んだ役割が必要であり、こうしたDX系のプロジェクトにおいては、全体最適を見る「カタリスト」の役割をアサインする事例は増えていくと思います。
企業としてのteamLab③ ~不真面目風にするのも合理的~
講演のなかで、teamLabの社内も案内してもらいました。代表的なものを紹介します。
・紙でできたテーブル
・平らじゃない机(マッサージボール、砂が敷き詰められている)
働き方改革の文脈で、ワークプレースをデザインし直すというのも流行っていますが、ふつうの企業でこれを提案したら「ふざけているのか」と一蹴されそうです。
ただ、外見は子どものアイデアを形にしたようなものであっても、ちゃんと理由があります。
・紙でできたテーブル
⇒答えがないことを扱うことが多い。みんなで書くというのが合理的。
ホワイトボードだと「正しいことを書かなければならない」感がある。
書きながら出ないと思いつかないこともある。
ちゃんとしないといけない、を排除したい
・平らじゃない机
⇒皆PCを使って仕事をしている。
書かない前提の机でなければ、身体的な刺激があった方がいい。
遊びがあった方がいい。
つまり、合理的に考えて適しているからそういう職場空間にしているということです。
大企業は真面目さが足りない。不真面目な風にするのも合理性。
というのは、ムサビでの体験もあいまって、とても納得できる話でした。
印象的だった話
印象的だった話を摘録的に書きます(筆者個人の備忘のためにも)。
・アートに関してはなおさら作ってみる。実験してみる。
・0から作らないというのを滅茶苦茶やっている。
・アップデート掛けていくというのをやる。特にアート側。
・デジタルソリューションの領域については、なによりもユーザビリティを追究している。
・「品質」とはユーザーの体験や使いやすさ(定性的)。
・数値化/言語化は情報量をそぎ落としている。
・内製化している良いこととして、一緒にやっていると、情報レベルが一致してくる。1時間とかのブレストで案が決まる。社外とのワークショップ、ブレストは苦手。何でダメかを話さなければならない。
クリエイティブリーダーシップとは?
~チームで力を発揮するということ~
今回は「デジタルソリューション」を皮切りに、「企業」としてのteamLabを考えました。
法人としてクリエイティブリーダーシップを発揮しているような会社ですが、色々な土台があって成し遂げられているのだと分かります。
派手さの裏に隠れていますが、集団としてどうアウトプットを出すかという点で入念に設計されているという印象を受けました。
「teamLab」という会社名の表す通り、チームにこだわった会社であり、クレジットは個人ではないというのは堺さんも強調されていました。
皆で一緒に作ったほうが、クオリティ高く、でかいものが作れるという人を集めている。プロダクトを作っている感覚に近い。
個の力を重視しがちなクリエイティブの領域において、集団での力をどうやって出すかというのは、肝に銘じておくべきことと思います。
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