私がもちこんだもの
私が初めての引っ越しに持ち込んだもの。
黒と白に塗り替えた木のタンス。
黒いパイプのリラックスチェア。
メルローズのシャツ。
ラルフローレンのジャンパージャケット。
ポールスミスのスーツ。
ビッグアメリカンショップのコート。
ネメスのTシャツ。
雑誌リラックス。
村上春樹の小説。
0.5mmのハイテックのボールペン。
中古のプレイステーション2。
別れを告げられなかった彼女。
新しい場所への期待。
その他。
最初の引越しは、心も体も軽かった。荷物は全部、父親のオデッセイに詰め込んだ。広島の端っこの町から、大阪の街まで運んだ。
到着してすぐ、近くにあったファミレスで昼食をとった。ゴムみたいな肉だったけど、帰り際にウエイトレスが「お味はいかがでしたか」と聞いた。
父親と二人、顔を見合わせた。
ベッドとテレビと小型冷蔵庫が備え付けられたワンルーム。
角部屋なのに安かった。
なんの変哲もない部屋だったけれど、ワクワクした。初めての一人暮らし。
この時に持ち込んだものは、今は何一つ残っていない。
捨てたもの、無くしたり失ったものが、みんな一緒くたになって心の隅っこでホコリをかぶっている。
たまにこうやって記憶から引っ張り出して心の中でホコリを払っていると思い出す。
お父さん。
あの時に援助してくれて、ありがとう。
家族が望むようには進路を取らなかったけど、当時はそれを当然みたいな顔していたけど、それでも感謝していた。
今は、その100万倍も感謝しています。
私は当時思い描いていた立派な人にはなれそうです。
でも当時と同じようにあなたを尊敬しています。
ボケて老人ホームに引っ越さないで済むように願っています。
いつまでも元気でいてください。ちゃお!
サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。