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臨床ガイドラインにはない「希望」

わたしたちが日常おこなう医療には,無数の問いとその答えのくりかえしがあります.問題があって答えがあるのは診療ガイドラインの形式といえるかもしれません.昨今のガイドラインはまさにQ&Aで与えられています.だから従来の医学生・レジデント教育は「ガイドライン」を覚えることが中心でした.

しかし重要なのは「問いを見つける」ことにあるといえば,それに同意してくれるかたは多いと思います.問題を自分で見つけ解決していくところに真の臨床が生まれます.問題があっても答えがないこともしばしばです.正解がないところで診療に苦闘し,答えがないことはときに医療の希望にすらなります.

人間に向きあった医療では,ガイドラインの問答におさまりきれない無数の「問い」が生まれてきます.「問題も答えもある」医療であればAIで代用可能なわけですが,そうはいかないだろうことは臨床医ならば実感しています.それは問題発見こそ真の臨床力であり,そこには答えがあることもないこともあります.

「問題はあるが答えはない」世界では,われわれは患者と苦労してかかわりながら試行錯誤ですこしずつ前進していこうとします.先に述べたように,そこにはガイドラインにはない「希望」とでもいうべきものがあります.それに導かれながら医師と患者はともに「医療」をつくりあげていくのだと思います.

さらにその周囲には「問題も答えもない」広大な世界が広がっています.医学による人間の探求には無限の可能性があります.既存の枠をとりはらい,疑問をもって探求するものだけがあらたな問題を発見しつづけるのです.そのなかで「答えのなさそうな問題」にも答えをみつけられるようになるでしょう.

蛇足ながらSNSで活躍する多くの医師が,既存の「問いと答え」を一般に宣伝することで人気を得ています.それ自体はいいことですが,ときに重要なことに目を曇らせています.甲状腺の病気について教科書的な啓蒙するだけで問いを怠るため,甲状腺調査で残酷な害をまきちらしていることに気がつきません.

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