切迫早産に「ベッド上安静」は効果がないだけでなく,そもそも望ましくない
コクランのシステマティックレビューでは,切迫早産妊婦に安静をさせてもさせなくても,妊娠延長には差がないことがあきらかになっています(Bed rest in singleton pregnancies for preventing preterm birth. Cochrane Database Syst Rev 2015(3):CD003581)
また別の研究によれば,米国で,すくなくとも3週間以上のベッド上安静を指導されたハイリスク妊婦12人を対象に,その経験についてくわしい聞きとり調査がおこなわれました.妊婦たちは,ベッド上安静体験から生じる身体的,精神的,家族的,経済的な苦難のレベルが高いことを訴えたことを報告しています.
安静を受けいれるためには,十分な経済的余裕があること,健康保険に加入していること,家の仕事をかわっておこなってくれる親族がいることが条件でした.ベッド上安静の有効性は証明されておらず,妊婦やその家族に深刻なデメリットを可能性があることを考慮すれば,ルーチンでおこなわれる安静指示は見直すべきであるとされています.
切迫早産のときはあまり動かないほうがいい,ベッドのうえで安静にしておくべきだというのは,これまであたりまえの常識のように思われてきました.産科学の多くの教科書にもそのように書かれており,わたしたちは安静の必要性について疑うことなどなく,切迫早産の妊婦さんたちに治療の第一歩としてそのように指導してきました.
しかし近年,妊婦さんの安静の必要性については大幅に見直されています.すなわちベッド上安静が早産予防に有効であるというエビデンスははっきりせず,その一方で,安静には静脈血栓症や筋委縮,心血管系の機能低下をひきおこすデメリットがあります.また妊婦さんやその家族にとっておおきなストレスとなり,妊娠にたいするアンビバレントな感情や自責の念をひきおこすことも知られています.
最近,ACOG(米国産婦人科学会)は,「いかなる理由があっても,妊娠中の女性に活動制限やベッド安静を指示してはいけない」という勧告をだしました.
妊娠中の活動制限や安静は、どのような症状に対しても日常的に勧められるものではありません。切迫早産だけでなく,多胎妊娠,胎児発育遅延,前置胎盤,妊娠高血圧のすべてにたいしてです.すなわち安静によってこれらの予後改善のエビデンスがないにもかかわらず,妊婦さんの筋力低下(廃用症候群)や血栓塞栓症の増加のリスクが深刻なためとしています.
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