見出し画像

福島甲状腺調査における過剰診断

過剰診断の定義をあらためて書くと、「治療しなくて放置していても、生涯にわたってなんの害もださない病気をみつけてしまうこと」です。甲状腺がんは性質がおとなしく、とくに子どものがんは命を影響することはまずありません。そのようながんをみつけてしまうと、過剰診断という深刻な害をおこります。

韓国では2000年ころより甲状腺がん検診を国民に積極的に推奨しました。その結果2011年にはがん患者数が15倍になった一方、がん死亡者数はまったく変化がありませんでした。韓国の疫学者が甲状腺がんの急増は「過剰診断」の結果である、と2014年のNEJMという雑誌に発表し、過剰診断の存在は世界的なコンセンサスになったのです。

これらの状況を背景に米国予防医学委員会は、症状のないおとなに対する超音波による甲状腺検診を禁止し(2017)、さらにその後子ども対象にも、また原子力災害後にも拡大されました。また欧州の研究グループSHAMISENやWHOのIARCも、子ども対象も事故後も検診すべきでないという同様の勧告がだされました。

福島の甲状腺検診がはじまった2011年はまだこういった事実が知られてなく、しかたがない面もありました。しかし韓国の論文がでた2014年や、いくつかの国際機関が無症状者への検診を禁じた2018年など、甲状腺調査を中止するタイミングは何回もありました。それでもさまざまな理屈をつけ続けられたのです。

国際的なコンセンサスがこの日本では通用しない、そういったことにわたしたちはしばしば遭遇します。たとえばわたしの専門では切迫早産管理などがそうです。個人の力ではおおきな体制をかえることができず、忸怩たる思いもしますが、倦まず弛まずくりかえし声をだしていくほかないのでしょうね。

いずれにしても過剰診断の被害者はいつも子どもたちです。がんと宣告されて苦しみ、手術を受けて苦しみ、就職や結婚の機会にあたって苦しみ、生命保険に加入できず苦しみ、社会的差別をうけて苦しむのです。ほんとうに甲状腺調査が必要ですか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?