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【マンガ感想】『がきデカ』と『中春こまわり君』

 1970年代後半生まれのわたしが物心ついたときには『がきデカ』の連載(1974-1980年)は終了していたので、 この作品から生まれた「死刑」というギャグは知っていたんですが読んだことはありませんでした。

 若い人のなかにはご存知ない方もいるかと思うので、『がきデカ』という作品を簡単に説明すると主人公、少年警察官こまわり君が引き起こすハチャメチャを描いた山上たつひこ先生によるギャグ漫画です。
「死刑!」というギャグが有名ですが、他にも「八丈島のきょんっ」「あふりか象が好き!!」等のギャグを生み出しています。

左の下ぶくれの少年がこまわり君。右はこまわり君のよき相棒、栃の嵐。
こちらのkindle版は全26巻。
始まりから終わりまでほとんど作品のテンポが変わらないのがスゴイ。

 40年前に連載されていた漫画だと思えないくらい新鮮で、ゲラゲラ笑って読みました。大人になって読んでこんだけおもしろいんだから、子どものころに読んだら腹抱えて畳に突っ伏して笑ったかと思います。

 こまわり君は下品で汚いんですが、こまわり君を支えるイケメンの西城君、モモちゃんとジュンちゃんというカワイイ姉妹がいることで絶妙なバランスが取れていると思います。

こまわり君と栃の嵐以外のキャラが出てくることが少ない表紙ですが、20巻には主要キャラが集合。
上からみんなの担任のあべ先生、中段左が栃の嵐、右がジュンちゃん、下段左が西条君、右がモモちゃん

 最初は西城君がツッコミ役で、モモちゃんとジュンちゃんはこまわり君がすることに驚いたり怒ったりしているんですが、5巻あたりからジュンちゃんがこまわり君がやることに乗っかるというおかしな流れがはじまり、7巻では、ジュンちゃんこまわり君に促されて公衆の面前であるにもかかわらず、おしっこして話落としてました。 ジュンちゃんすげえ!
 女がすると笑えないことが多い中、男と同じことをして話を落とすジュンちゃん、最強じゃないかと思いました。

 色々好きな話はあるのですが、特にお気に入りは5巻のゴキブリの回です。
 一コマ目で壁一面にゴキブリが這っている台所という普通に考えたら卒倒するであろう中でこまわり君のお父さんとお母さんが、「最近ゴキブリ多いのよね」「そうだな」というのどかな会話をしていて、もうそこからおかしい。あげく巨大ゴキブリに乗ったこまわり君がゴキブリを操縦して空を飛ぶというこの回、何回読んでも笑っちゃいます。

 全26巻を読み終えて、大満足!
 他にも山上先生の作品がないかな、と探したところ『中春こまわり君』という作品を発見。大人になったこまわり君が主人公。これは読まないわけにはいかない!と手に取りました。

哀愁ただようサラリーマンこまわり君。

『がきデカ』で小学生だったこまわり君は大人になり今や妻子あるサラリーマンです。
飲み屋であった初対面の人に往年のギャグ「死刑!」をやってくださいよ、と頼まれ内心いやいやながらもやってあげるシーンが涙を誘います。

 小学生の頃は、他人の迷惑を顧みずにやりたい放題やったこまわり君が大人になり、他人に翻弄されて生きている。そんな現実の塩辛さを存分に描いた作品です。

 大人になったこまわり君もショックでしたが、更にショックだったのは、明るく元気だったあのジュンちゃんが、ダメ男に引っかかり、周りからは不幸と思える人生を歩んでいたこと。
そして、結婚願望の強かったあべ先生は当時の恋人と別れアル中となっていて……。

 か、かなしい。

 子どものころに欲望のままに生き、周りに迷惑をかけまくったこまわり君が、大人となり欲望に振り回され生きる大人に寄り添います。
 欲望のままに生きたこまわり君はどこで大人の階段を登ったのか……。
 そしてこまわり君に迷惑をかけられていた側のジュンちゃんやあべ先生がこまわり君から心配される立場となるなんて、ほんとうに人生は単純にはいかないなと思います。

 『中春こまわり君』は子どもの頃に読んだら、こんなこまわり君の姿見たくなかったと思ったかもしれませんが、大人になって読むと、現実のどうしようもなさがどうにも沁みます。
 子どもの頃食べられなかった焼き魚の腹わたが、大人になると最高の酒の肴になる。読み終えてそんなことを思いました。

 『がきデカ』というギャグマンガは『中春こまわり君』という作品が生まれるための序章だったのではないか、と思ってしまうほど個人的におもしろかった『中春こまわり君』でした。

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