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寄贈書鑑賞

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ご寄贈頂いた歌集・詩集 小説 文芸評論などにについての紹介と鑑賞文です
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記事一覧

黒田勝雄写真集

黒田勝雄写真集  『浦安 汐風のまち2003-2019』 大月書店 2023年7月刊  『最後の湯田のマタギ』藤原書店 2020年6月刊  わたしたちにとっては、黒田勝雄氏は俳人・黒田杏子氏の魂の伴走者である夫君でいらっしゃる存在である。  もちろん、写真家として写真界では評価の高い方である。  写真集に掲載されている氏のプロフィルを以下に転写させていただく。  この度、上梓された『浦安 汐風のまち2003-2019』という写真集は、『最後の湯田のマタギ』という、その

 鈴木比佐雄著『沖縄・福島・東北の先駆的構想力』

   ※  戦後日本において、「戦争被害」は末期の空襲と最後の決定的な原爆禍を軸とした「被害者」の位置に日本人を置く視座で語ることに終始してきている。それは今も変わらない。加害者でもあることを率直に認識するのを厭う心理が背景にあるからだろう。それだけではなく、政治の世界で右派に属する者たちには、それを加害として語ることへの拒否感や嫌悪感を顕わにして憚らない一派がいて、それをかなりのボリュームの日本人たちが支持している、という迷妄さが現存するのがか事実ですらある。  もちろん、

中村節也編曲『宮澤賢治歌曲全集』

 中村節也氏のライフワークである宮澤賢治研究の成果の一つである、宮澤賢治の全歌曲の、中村節也氏の全編曲による歌曲集が上梓された。  児童歌唱であったり、曲だけの演奏で聴いたことがある賢治の歌曲が、ピアノ伴奏によるテノール歌唱で、全歌曲が収録されている。  まるでクラシックのシューベルト歌曲集を聴いているような、格調の高い歌曲集になっている。  かつ、賢治のイーハトーヴ ワールドに包み込まれるような気持ちさせてくれるCDである。  私宛のメールで述べられていた、中村節也氏のこ

『飯田秀實 随筆・写真集 山廬(さんろ)の四季 蛇笏・龍太・秀實の飯田家三代の暮らしと俳句』

                                                              (コールサック社2022年10月刊) 目次     飯田秀實氏は飯田龍太の長男、飯田蛇笏の孫。  山廬とは、この三代が住み暮した家のことで、「俳句の聖地」と呼ばれている。  その場所を守り、管理している秀實氏は随筆で次のように書いている。            ※           ※ 3 厳冬期の山廬  甲府盆地の東南に位置する笛吹市境川町、山

髙田正子著『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』

                                                                      深夜叢書社2022年8月刊  本書の著者、髙田正子氏は、昭和34年生まれで、大学卒業の頃、黒田杏子氏と出会い、「木の椅子会」「東京あんず句会(於法真寺)」「あんず句会(於寂庵、常寂光寺)」に参加、以来、黒田杏子氏とは40年以上のご縁だそうである。  髙田正子氏は「わが師を語る 黒田杏子」と題する文章を、「NHK俳句テキスト」2021年2

太田土男『季語深耕 田んぼの科学―驚きの里山の生物多様性』

                                                             コールサック社2022年7月刊                俳人または俳句に興味のある方には、とても面白く参考になる本である。  タイトルの通り、田んぼをめぐるあらゆることが、たくさんの俳句の紹介も含めて書かれている。  俳句の基本である歳時記は、日本の稲作農耕を中心とした季節観、暮しの思想の集大成である。  俳人だけでなく、どれだけ稲作文化のことを知

守口三郎著『劇詩 受難の天使 世阿弥』   ――癒しと救済を希求する求道的精神世界

                      コールサック社 寄贈書 2017年9月7日、守口三郎氏著の『劇詩 受難の天使 世阿弥』という、ジャンルで言えば詩の本が、コールサック社から上梓された。 「受難の天使」と「世阿弥」という二編の「劇詩」が収録されている。 そして、韻文図書では珍しいことに、巻末に著者による詳細な、作品の「主題」をめぐる解説が収められている。 韻文でも小説でも通常、作者自身が同じ書物のなかで、作品の一番大切な「主題」をめぐって詳しく解説することは稀である

中村節也著『宮沢賢治の宇宙音感―音楽と星と法華経ー』

             (コールサック社2017年8月21日刊)寄贈書  宮沢賢治研究書としてみた場合、これまでの研究書、関連本が捉えきれなかった空白の部分を補う貴重な著作が出版された。 それがこの『宮沢賢治の宇宙音感―音楽と星と法華経―』という本である。(コールサック社2017年8月21日刊)  著者の中村節也氏は作曲家で、宮沢賢治研究家にして、法華経の信仰も厚く宗教・天文の造詣も深い人である。賢治を研究する人としてはオールラウンドの最強の人である。 文学者か天文学

絵本『ひみつのえんそく きんいろのさばく』

 くら ささら 文/木内達朗 絵   福音館書店 2022年8月刊  新進の歌人、九螺ささらが福音館書店から絵本を出版した。   九螺ささらは2018年に『神様の住所』という歌集でドゥマゴ文学賞を受賞している。「めまい」のような新感覚的表現で「存在」の根幹を揺るがすような作風で注目を浴び、その後も『きえもの』『ゆめのほとり鳥』という独創的な歌集を発表し続けている。  そんな彼女が、児童向けの絵本の「文」を書き下ろした。   歌集の「めまい」の作風が、童話的不思議の世界

「ジンルイ」九螺ささら  新作短歌

 ―― 短歌ムック「ねむらない樹」vol.5 掲載 書肆侃侃房 2020年8月   今年(2020年)書肆侃侃房発行の短歌ムック「ねむらない樹」vol.5に、気鋭の歌人、九螺ささらの新作短歌が掲載されていた。   現代社会と向き合う前衛の新鋭歌人として、新型コロナウイルス禍に材をとった連作短歌である。   だがストレートな表現ではなく身体感覚を直撃する諧謔味と、哲学的、歴史学的視座からの、問題の変質へ切り込もうとしている作歌の姿勢が覗える。  3メートル、2メートル、そ

深化し続ける自立した表現世界―九螺ささら歌集『きえもの』考

                        2020年06月21日 記 1 『神様の住所』『ゆめのほとり鳥』そして『きえもの』へ 先ずこの歌集がどう紹介されているか引用しよう。       ※    本を開いて五分で飛び立つ、非日常の世界。 短歌と物語が響き合う小宇宙。 ネクター・ハチミツ・鳩サブレー……。 幾つもの「きえもの」=「たべもの」を切り口に、ありふれた日常の風景の中に非日常への扉を描き出す。 現実と夢、有と無、わかるとわからない、重なり混じり合う境界線を飛

宇宙的謎酔いを創造する文学―九螺ささら歌集『ゆめのほとり鳥』考

                                                                 この歌集について、まず作者の声から聴いておこう。 「あとがき」からの抜粋。    ※  ゆめのほとりに鳥がいることに気づいたのは、いつだったのだろう。 ずっと、いる。  羽根があるのに飛び立たず、飛び立てず。  たぶん、同じ鳥なんだと思う。  (略)  でも、いる。永遠のようにいる。  厳然と。それぞれひとりぽっちで。  あれはわたしそのものか

短歌界では今、九螺ささらが面白い 『神様の住所』(朝日出版 2018年6月11日刊)

                                                                                  2018年06月26日 記  本書の帯に次のような惹句が記されている。 「俵万智、穂村弘、東直子と続く革新短歌の宇宙を、哲学的な輝きで新たに飲み込む。短歌が入口で宇宙が出口。」  だが、同じ革新短歌の流れと言っても、九螺ささらは、俵万智、東直子、ニューウェーブ短歌と言われる加藤治郎、荻原裕幸、穂村弘、西田政史はも