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「性別」について考える。分類する意味とは?

今回のテーマは「性別」です。

性別なんて「男」と「女」で明確に区別できるじゃないか。
それ以外の人がLGBTとかマイノリティでしょ?
と思われるかもしれません。

私自身、ジェンダーについて勉強する中でもっとも大きなパラダイムシフトだったのが「性別」についてでした。
なぜ世界の多くの国で「男」と「女」に二分されているのでしょうか?
それはどのような意味があるのか?
などについて考えてみたいと思います。

アメリカの若年層のLGBTQの割合

先日、興味深い記事を目にしました。

アメリカの18~24歳のZ世代と呼ばれる年齢層で、「自分はLGBTQだ」としている割合が実に39%にものぼるという調査結果が出たのです。
約4割と考えるとすごく多いように思いますよね。

日本の調査では、今年4月に行われたP&Gのものがあります。

自身の性認識・性的指向として「LGBTQ+」と回答したのは、10代で19.2%、20代で14.6%でした。

一般的にLGBTQの割合は8~10%程度と言われることが多く、やはり若い年齢層で高い傾向があるようです。

この結果に関して、

「クールだから」
「LGBTQに関する話題に触れる機会が多く、若者は自分もそうなのでは、と思いやすい」
「本当のLGBTQの人を馬鹿にしてる」

など、色々な意見があるようですが、単に「流行り」みたいなものなのでしょうか?
そうではなくて、性自認や性的指向、性表現などに関して「男/女」に二分されない意識や前提が出来つつあるのではないか、と私は考えています。

性別を考える材料

分類のためには、判断のために何らかの軸が必要です。
性別に関してよく使われる軸として、以下のものが上げられます。

・戸籍や法律上の性
・性自認/性同一性
・性的指向(恋愛感情を抱く対象)
・性表現(服装や話し方など)
・性染色体
・外性器
・内性器 など

この中で単純に二分されているのは1つ目の「戸籍上の性」のみです。
その他の要素は、例えば「女性←―――→男性」のように矢印でつながれ、自分がどこに位置するのかをグラデーションで考えることが多くなっているように思います。

外性器や内性器、性染色体でさえ単純に2つには分けられない、ということが様々な本にも書いてあり、今までの当たり前だと思っていたことが、そうではないんだな、と気づかされた瞬間でした。

単純に2つに分けることはどんどん難しくなっている

性別が割り当てられる基準となる「外性器」や「内性器」、「性染色体」でも分けられないというのはどういうことなのか?

佐々木(2017)では、ジェンダー・アイデンティティ(性自認/性同一性)がどのように作られていくのかについて、様々な要素が紹介されています。

その中の一つである性染色体やホルモンの影響について考えてみましょう。
性染色体は典型的には男性がXY型、女性がXX型と生物でも習いました。
しかし、一定の割合でXを一つしか持たない人や、XXY型、XYY型といった非典型的な性染色体を持つ人も誕生します。

そして、いざXY型の性染色体であったとしても、身体が男性化するには5α還元酵素が必要です。これが欠損している場合、男性化が起こらずに外性器が女性化します。

その結果として生誕時に「女性」の性別を割り当てられた人を対象に、その後のジェンダー・アイデンティティを調べた研究があります。
第二次性徴などのタイミングで男性に変わる人も多くいて、研究によって5~9割にもなるようです。

ホルモンと性同一性の関係

つまり、XYだから身体的にも男性とは限らず、ましてどのようなジェンダー・アイデンティティを持っているのかなどは、外から分類できるものではないし、絶対にこうなる、という確証はないといえそうです。

戸籍上の性に関しても、性分化疾患などですぐに判別できない場合、性別の欄を未記入で提出し、後で追完することもできるようです。

SOGIの概念でどのように変わる?

このような性別を二分しない考えを概念化したものとして、「SOGI」があります。
SOGIはSexual Orientation and Gender Identityの頭文字をとったもので、性的指向・性自認を意味します。

SOGIの説明の際には、性は以下のように4つの要素で表され、人それぞれ多様であることを明確にします。
性自認と性的指向、性表現が区別されており、例えば「男性が好きになるから自分は女性」「女性らしい恰好がしたいから性自認は女性」などのように「こうであればこう」という考えに縛られずに性を表現することができます。

SOGI性の4つの要素

特に「性自認」はとても重要であり、難しい部分かもしれません。
アメリカ版のFacebookでは性別が58種類から選べることが知られており、例えば以下のようなものがあるようです。

★Agender=無性別者と呼ばれるセクシュアリティ
★Androgyne=両性。男性・女性といった身体的区別のできないセクシュアリティ。
★Bigender=両方のジェンダーを自認しており、男性・女性を切り替えているセクシュアリティ。
★Gender Fluid=ジェンダーが流動的なセクシュアリティ。
★Gender Nonconforming=レズビアン・ゲイもなど、既存のジェンダー分類に当てはまらないセクシュアリティ。
★Intersex=中間的な性などのセクシュアリティ。
★Non-binary=男性・女性に限定せず、両性が混合または中間的、もしくは全く違うものを感じているセクシュアリティ。第3の性とも呼ばれています。
★Two-spirit=ネイティブアメリカンの伝統的に認識されている多様な性役割を担っているセクシュアリティ。

ぱっと見、同じことのようで、4つの要素で考えてみるとそれぞれ異なる部分を指していることもわかります。
結局「分類」することに縛られているんじゃないか?ということも思ったのですが、これは分類というよりは、性に関して、よりしっくりくる「説明」や「表現」に近いのかなと思います。

LGBT「Q」の割合

さて、若者のLGBTQの割合についてですが、私は「Q」の部分がすごく重要なのではないかと思っています。

Qは「クエスチョニング」や「クイア」を意味しています。
神谷・松岡(2020)では、クエスチョニングは「自らの性のあり方等について特定の枠に属さない人、わからない人。典型的な男性・女性ではないと感じる人」、クイアは「規範的な性のあり方以外のセクシュアリティ」と説明されています。

1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれたZ世代は、デジタルネイティブとして、日本のテレビ番組などの限られた文化や習慣によらず、世界の様々な情報に触れる機会も多いと想像します。
そして、そうした中で「自分らしさ」や「多様性」ということばも当たり前になじんでいる世代です。

生まれたときに外から割り当てられた「男/女」という区別の価値や重要度が下がり、自身に対する「らしさ」そして他者に対する「多様性」も柔軟に受け入れていく意識が強いのではないか、と推察します。

このことに危機感を抱く人もいるんだろうと思います。
そんな人に何か安心できることを、といっても難しいですが、それが普通の社会になれば、そんな思いを持つ必要もないんだな、ということになるんじゃないでしょうか。

性別が2つじゃない国

Disney+の「ジェンダー革命」では、「男/女」以外の第3の性が存在する国が紹介されています。

1つ目はサモアの「ファファフィネ」。
そしてインドの「ヒジュラ」。
法的にも認められていて、インドの公的な書類には「M(Male)」「F(Female)」のほかに「T(Transgender)」や「O(Other)」が選べるようになっています。
他にもメキシコやイスラエルの例が挙げられています。

とっても勉強になる動画なので、Disney+に加入している人はぜひ見てみてください。

最近では、アメリカで性別が「X」のパスポートが初めて発行されたことが話題になりました。

こうしたジェンダー・インクルーシブなパスポートはカナダ、ドイツ、デンマーク、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、ネパールなどでも発行されているようです。

考えてみると、なぜパスポートに性別欄が必要だったのか?と思いますよね。
身体的特徴や身分証明といったって、何と照らし合わせて確認するのでしょうか。

おわりに

今回、結局何が書きたかったのか、と考えてみました。
先のジェンダー革命では、「私が死んだらどうなる?女の子の姿で戻ってこれる?」と聞くトランスジェンダーの女性が登場します。これを母親に尋ねたのは7歳半。

性別が2つしかない社会で、それがしっくりこない人がいたときに、私たちは何ができるのでしょうか?
他人事じゃなく、これから生まれてくる自分の子がそんなことを言ったら?

もし、戸籍に性別を書かなくてもいいとか、性別の変更に身体的な手術が必要なくなれば?パスポートにFもMも書かなくていいなら?
同性でも結婚できるし、卵子や精子のドナーが正式に受けられるなら?
性別に縛られずにやりたいスポーツができて、勉強ができて、働くことができたら?

そうしたことが当たり前にできる社会であれば、自分らしくあろうとすることで不必要に傷つくことは減るかもしれない。
逆に、全く当たり前じゃないこの社会では、傷つかないでいいことでこの子が傷ついたり、傷つけてしまうことがあるかもしれない。
生きていくのが嫌になってしまうことがあるかもしれない。

そんなことを考えると悲しいし、どうしたら変わっていけるのか考えていかないといけないと思う。そして、実際に変えていかないといけない。

私たちはFとMでしか身分証明ができないのか?
同性婚が成立すれば本当に家族は壊れてしまうのか?

夫婦別姓も法整備ができない日本では、本当に難しいことだとも思うけど、これらに必要なのは社会的なシステムや法律の整備と、人が持ってる社会通念を広げることじゃないかと思います。

長くなってしまいましたが、最後までお読みいただいた方、ありがとうございます!
感想などあればお聞かせください。


(参考)
神谷悠一・松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』集英社新書、2020
佐々木掌子『トランスジェンダーの心理学―多様な性同一性の発達メカニズムと形成』晃洋書房、2017


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