紫の発見 1/5
温度のないマゼンタ
そこに温もりはない
けれども、火は絶えていない
シアンと黒
冬の寒さに覆われ
あらゆる彩りが見失われながらも
確かにそこにある、ひとつの色
控えめで、優しくて
それでも決して、消えることのない
ささやかな熱
それは、紫の発見
凍てつく朝に贈られた、紫の発見
・ ・ ・ ・ ・
繰り返し思い出す光景がある。
その日は出張で福島県を訪れていた。十二月の午前に吹く風は冷たく、駅の改札の外へ出て吐いた息は、白い煙となって青い空に昇っていった。
当時は商品開発に携わっていて、新しいデザインのパッケージ印刷に立ち会うため、私はデザイナーの女性と東京から新幹線に乗ったのだった。タクシー乗り場で待っていた印刷会社の男性に挨拶をしてから、三人でタクシーに乗った。彼が助手席に座って、後部座席の右手に私、左手に彼女が腰を下ろした。
「工場まで二、三十分です」と男性が言ってから、当たり障りのない会話が始まった。天気の話をしたり、到着後の段取りについて擦り合わせをしてしまうと、特に話題もなくなった。窓の外に田舎の風景が広がり始め、人工的な建物が徐々に姿を消していくのに合わせて口数は減っていった。車内に穏やかな静寂が訪れ、三人はそれぞれの想いにふけっていた。
タクシーはなだらかな起伏の丘を登り始め、曲がりくねった緩やかな斜面を走っていた。目線と同じくらいの高さまで茂った草が途切れ、それより少し背の高いススキに代わったのは、その数分後だった。
辺り一面と言えるほど生い茂っていたわけではない。車窓という視野に突如現れた、野生のススキの群れ。冬の陽光を浴びながら風になびいていた、その穂の煌めき。
「ススキがきれい」
無意識に口から出てしまった言葉が、ひっそりとした車の中で響いた。一秒か二秒経ってから、デザイナーの女性が言った。
「そんなこと言う人なんだ」
再び沈黙が訪れ、後ろへ過ぎ去っていくススキとその色を私はただ見つめていた。
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