2024/05/??


 女子高生はゴールデンレトリバーに似た金色の毛を持つメスの大型犬を飼っていた。ミックスであるのか、正確な犬種は不明。何故飼うに至ったかも不明。女子高生の家族は動物が好きではなく、散歩にも行かないし、キツく叱ったり手をあげたりすることもある。女子高生はそんな家族の横暴から、いつも飼い犬を庇っていた。
 ある日のこと、家族は旅行へ行くことに。犬を一匹で留守番させるわけには行かないが、動物嫌いの家族はペットホテル代をも出し渋る。そこで、女子高生だけは家に残り、飼い犬とともに留守番をすることを決意。家族に惜しまれながらも、女子高生は愛する飼い犬とともに家に残った。
 家族が一週間ほどの旅行へ発った日の夜。飼い犬は人間に姿を変えた。金色の美しい毛並みは漆黒のショートカットへ変化し、涼しげな目元が印象的な美女となった。犬の姿での筋肉量や体格を保持しているのか、身長は180㎝ほどで、胸部は広い肋骨に脂肪ではなく筋肉が乗っている。肩や腕も太く、女子高生の華奢な体などひとたまりもないだろう。飼い犬だった女は、身長160㎝ほどの女子高生にタックルするように抱きつき、骨を折るくらいの勢いで抱きしめた。
 飼い犬の女は、体格こそ大きいが、思考力は幼児レベルのようであった。声帯や舌も発達していないのか、たいした言葉を発することはできない。しかし、女子高生は飼い犬が女性に姿を変える瞬間を目の当たりにしていたこともあり、女性を家族の一員として認知していた。家族が発ってから数日後、女性に父親の服を着せ街へ散歩に出た。どうやら女子高生が命じれば犬の姿に戻れるようだが、そうはしなかった。人間としての彼女と散歩をしたかった。自分のものであるこの美しい女を見せびらかし、優越感に浸りたかったという下心もある。途中、街で遭遇した小型犬が女子高生に向かって吠え、女性がその犬を蹴り上げようとして慌てて止めたり、街中で粗相をしようとして慌てて叱ったりしたが、商店街で買った人間用の甘味を二人で楽しんだりして、有意義な時間を過ごしていた。
 家に帰ってから、二人で風呂に入る。正面から見た女性の裸体は筋骨隆々であり、女子高生は少々見惚れた。女子高生は女性の短い髪を洗い、背中を流してやる。自分の体も手早く洗うと、二人で湯船に浸かった。女性の大きな体と二人で浸かるには少々窮屈だったし、大量の湯が流れ出たが、そんなことは気にならなかった。女性の熱い視線が、女子高生の全身に突き刺さっていたからだ。不意に、女性の腕が上がる。狭い湯船の中、自然に背に回された腕に引き寄せられ、女子高生は女性の広い胸の中に閉じ込められた。動かせるスペースなど限られているが、女性が自らの腰を女子高生の臍あたりに押し付ける。女子高生は嫌悪感を抱かなかった。当たり前のように口付ける。その日のうちに二人は一線を超えた。
 家族が帰ってきても、二人の関係はひっそりと続いた。普段は犬の姿で暮らしているが、家族が寝静まったあと、犬は女性の姿になり、体を重ねる。多少言葉を覚えた女性は、ときどき「こどもを産んで」と言うようになった。犬がオスならもしかしたらあったかもしれないが、それは無理だよと教えても女性は聞かなかった。女性も女性なりに生命について本能的に理解しているようではあるが、大きな愛のもとでそんな理論は無意味だった。愛する相手との子供が欲しいと願うのは案外自然なことかもしれない。女子高生も、飼い犬への愛と思春期特有の性欲の強さも相俟って、女性との関係について積極的だった。性玩具をネットで購入したり、新しいプレイを試したり、女性との行為を楽しんでいた。
 それは突然だった。深夜、物音に目を覚ました父親が、女性との行為中である女子高生の部屋に入ってきたのだ。全裸で体を重ね、秘部から玩具を覗かせる女子高生に対し、父親はまず激怒した。それから上に乗る女性を無理矢理引き剥がし、一発殴った。パニックに陥った女子高生は、女性に対し犬に戻るよう指示してしまう。女子高生に対して従順な女性は、父の目の前で犬に戻った。しかし、それがまた父の怒りの火に油を注いでしまう。畜生と交わる娘を穢れた存在のように罵倒し、妻ともう一人の娘を叩き起こし、家族会議を始めた。犬はまた女性の姿に戻り、服を身につけた女子高生の隣に全裸のままで正座する。変化を目の当たりにした家族は、女性に恐れ慄き、奇異の眼差しを向けた。
 家族会議で、女子高生は罵詈雑言を投げかけられた。暴力も振るわれた。今まで飼い犬に向けられてきたそれらを女子高生が庇ってきたように、今度は女性がそれを庇ったが、女性もまた詰られ、殴られた。女性は口端から血を流しつつ女子高生を伺う。女子高生は、小さく「死んじゃえ」と溢した。
 その瞬間、女性は立ち上がり、人並外れた筋力を生かして家族を次々に殺害していった。腕でラリアットのように頭を打つだけで頭部が形を変え、首がへし折れてしまう。時間にして30秒ほど。全てが終わったあとの目の前には惨状が広がっていて、似つかわしくないほどの笑顔で愛犬の女性が微笑んでいた。全裸の、血塗れの腕に抱きしめられる。辿々しい口ぶりで、だいすき、と囁かれた。
 自分のために、自分に害をなす者を排除してくれた愛犬の忠誠にますます愛情が芽生えると同時に、女子高生の愛犬への思いに一縷の翳りが落とされた。この女性は犬をそのまま人間にした存在であり、筋力も倫理観も本能も思考力も犬そのものである。今後何か、本能的にこの女性を刺激してしまったときは、理性的に解決することは不可能と考えていい。理性で制御できないほどの巨大な凶暴性を目の当たりにし、初めて愛犬に対して恐怖を覚えた。
 「私も大好きだよ」
 女子高生はそう言って、女性の背中に腕を回した。女性は嬉しそうに女子高生の肩に顔を押し付けた。
 夜明け頃、家族の死体をそのままに、二人は家中の金品を鞄に詰め、家を出たのだった。



 ここで目が覚めた。

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