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地方再生大全を読んだ感想

書籍の内容

 木下 斉(きのした あきら)さんという方が2016年に書いた本で、彼が地方に関わってきた経験から地方創生の問題点や目指す方向性について書いた本です。地方では正しいと考えられてきた施策が、逆に地方の衰退に繋がる事もあるという指摘などあって示唆に飛んでいます。

 特に地方の行政が絡んだものは、補助金・助成金があるために経済的に歪められた施策が多く、しかも誰も責任を取らないような構造になっているなど現状に対する批判も多いです。本の内容について少し例を挙げると、

  • 地域の合意を得ながら進める
    ➡議論だけしていて何も進まない

  • 公的事業なので大きな黒字は良くない
    ➡稼げない物は続かないし地域の進展にならない

  • 地域の事が得意なコンサルに依頼する
    ➡責任の所在が曖昧になる。自分達で考えて実行する事が大事

というような感じです。(これ以外にも沢山の指摘がされています)

書籍の時代背景

この本が書かれた頃の時代的背景があるので書いてみます。

 この本が書かれたのは 2016年の後半ですが、2014年に増田寛也氏が(正確には日本創生会議が)日本全国の自治体を調査して「地方消滅」という意見を唱えた頃です。消滅というのは大げさなのですが、主旨としては、このままでは地方自治体が破産する例が沢山出てくる・・・という警鐘を鳴らした物でした。

 それを受けてなのかどうか分かりませんが、政府も地方創生大臣を置くなどして、地方創生が注目を集め始めました。2015年から(?) 地域おこし協力隊(地方へ移住して実際に活動してもらう)という制度を総務省が始めて、やる気のある人に地方へ移住してもらって活動してもらうというのをやっていました。総務省から自治体へ補助金が出ていて、その自治体は地域おこし協力隊の隊員へ給料を支払うという形です。任期付きの委託業務のような感じです。

 当初は、総務省が色々な事例紹介を行っていて、どうなるのか注目していたのですが、それから10年近く経ってみると正直言ってめぼしい成果を上げる事が出来ていないのではないかと思っています。多少なり成果を挙げている人が居たら怒られそうですが、全体としてはあまり成果が無かったと見て間違いないと思っています。

行政の施策の誤謬

 行政が行った施策で地方創生に役立ったものってどのくらい有るのだろうかと思っています。自分が知っている成功事例は数えるほどしかないのですが、失敗例は沢山あります。

 また、失敗と烙印を押されていない物でも一見すると良さそうな感じがするけど、本当にそれがプラスになっているのか怪しい(精査されていない)物が多いと思います。

 例としては、各地にある地域クーポンですが(伊東市も去年発行したのですが今年も発行すると伊豆新聞に書いてありました)これもどの程度プラスになっているのか分かりません。

 地域クーポンの説明は不要かもしれませんが念のため書きますと、限られた地域の内でのみ利用可能な商品券のようなもので、例えば 5,000円以上の買い物時に 1,000円分のクーポンが使えるというようなものです。買い物する人は 4,000円で買い物ができて 1,000円分は後から行政がお店に対して払う仕組みになっています。商店街主体で行っている所もありますが、それも恐らく市区町村から補助金が入っているはずです。

 上記の例では、クーポンの 1,000円分が税金で補填されますが、それ以外にクーポン冊子の発行、利用済みクーポンの回収・集計、クーポン代の支払いと多くの作業や経費が発生します。どのくらいの経費かというと、幾つかの市町村で公開されている経費内訳を見ると約半分が間接的な経費だそうです。例えば杉並区が2022年に行ったプレミアム商品券の場合、全体の執行予算2億2889万円で、商品券が約1億2千万円、事務経費が1億8百万円だったそうです。幾つかの事例がネット上に有りますが、どれも約半分が間接経費でした。

 そうなると、最初から100%の金額を使って何か別の事をした方が良かったのではないかという議論があります。(幾つかの研究では、地域クーポンは費用対効果が良くないと言われています)

 何が良いのか我々もよく見てないと税金の使い道を誤りそうですね。

経済を回せないと意味がない

 今回、この本を読んでいて良い気付きになったのは、人口増加策が地方創生ではないという視点でした。人口の増加よりも大事なのは「稼いで経済を回す」という視点です。これは行政で有っても・・・という視点です。

 確かに行政の施策は、特産品作りとかイベント実施とか、1度限りで連続して経済が回るという物が少ない事に気が付きました。「箱物」行政もそうかもしれません。連続的に収益を上げ続けて黒字を生み出し続けて、地方の経済を回していく(可能であれば大きくしていく)のが大事だと。

 ちょっとこの視点では考えて来なかったので今後は「経済を回す」という視点でも考えてみようと思いました。

(おわり)

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