ジョン・カーペンター監督の映画「要塞警察」レビュー「真っ先に少女を真正面から撃ち殺すカーペンターの「本気」ぶりに身震いする…!」
カリフォルニア・アンダーソン地区で警察による
ギャング「グリーン・サンダー」のメンバーの大量射殺があり…
同ギャングは警察への報復を誓う。
アンダーソン地区は極めて治安が悪く…区画整理が決定し…
住民の移転も完了し…
アンダーソン警察署もギャングの大量射殺を最後に移転が決定している。
警部補になったばかりのビショップ(磯浦勉)の最初の仕事は
明日の移転までの殆ど空になったアンダーソン警察署の留守居。
だが…ギャングたちは警察の移転の話など知らず…彼等は武装し…
アンダーソン警察署の奴等を皆殺しにすべく警察署の包囲を計画する…。
一方大量殺人のカドで死刑が確定してる
凶悪犯ナポレオン・ウィルソン(青野武)他2名の
囚人の護送が粛々と行われていたが…
護送中に囚人のひとりの具合が悪くなり…
ストーカー警部(細野重之)はビショップに
3名の囚人の留置所への一時収監を依頼し
ビショップは事の緊急性を理解しこの依頼を受ける。
他方アンダーソン地区に不案内な父娘が車で移動中に…
娘が移動アイスクリームショップでアイスを購入する際に…
何の意味もなく何の科もなくギャングに真正面から撃ち殺される。
アンダーソン警察署襲撃に向けた
己の士気を鼓舞する為の行き掛けの駄賃だったのか…。
そんなコト…娘の父親の知った事かッ!
やられたらやり返せねばならぬ…。
逆上した父親は娘を撃ったギャングを撃ち殺し…
茫然自失の状態でアンダーソン警察署に駆け込む。
さあて。
役者は皆アンダーソン警察署に揃ったな…。
今や「グリーン・サンダー」はアンダーソン警察署を包囲し…
「中にいる者」「外に出ようとする者」を…
片っ端から消音銃(サイレンサー)で射殺し…
「一見何事も起こってない」様に見せかけながら皆殺しにするのみだ…。
アンダーソン警察署は既に
「警察」としての機能を殆ど喪失しており…
「戦える者」も「武器」も皆無に近い…
アンダーソン地区には人が殆ど残っておらず
「電話」と「電気」は真っ先にギャングに遮断され…
「助け」が呼べず「危機」の報せ様がない…
果たして「アンダーソン警察署」と言う名の
「皆殺しの砦」から…
生還する者などいるのだろうか…。
カーペンター監督の念頭には西部劇「リオ・ブラボー」があり…
インディアンに包囲され保安官と収監中の凶悪犯が協力して
窮地に立ち向かう状況を舞台を「現代」に翻案して描こうとしたと言う…。
「騎兵隊」が来るまで持ち応えれば「勝ち」…
死んだら「負け」というルール…。
映画全体の尺が約90分で…
この…超特異な舞台装置を作り上げるのに約40分を要している。
ギャングは最初から最後まで一言も発さず…
こっちに「殺意」だけ向けて来る不気味な存在として描かれ…
監督の念頭にはジョージ・A・ロメロ監督の
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の
グール(ゾンビ)が念頭にあったと言う…。
「奴等」が警察署の窓を破って侵入して来る場面は
まんまゾンビ映画であり…交渉の余地はゼロなのだ。
吹替では「説明」の必要を感じた吹替制作スタッフが
アドリブで最初に少しだけ「奴等」に「喋らせて」いる。
ナポレオン・ウィルソンの出自が全く分からない凶悪犯という設定は
後に「ニューヨーク1997」のスネーク・プリスケンに引き継がれ…
ナポレオンの口癖の「タバコあるか?」は
「エスケープ・フロム・L.A.」のラストで
スネークがタバコを吸う場面へと繋がって行く。
危急存亡の秋(とき)に当たって…
男は黙ってタバコを吸って一息つくのが「カッコイイ」のだ。
「ニューヨーク1997(1981年)」の日本語吹替制作スタッフは
スネーク=ナポレオンと悟り…
スネーク・プリスケンの声の出演は
ナポレオンと同じく青野武氏を配役している…。
「エスケープ・フロム・L.A.」の
スネークの声の出演は青野武氏ではない…。
だが吹替制作スタッフが「粋」を解しないのではない…
吹替音源が制作されたのは1997/2000年であり…
青野武氏は1990年から「ちびまる子ちゃん」のアニメで
さくら友蔵(おじいちゃん役)を演じる年齢となられていた…。
青野さんに恥をかかすまいとしたスタッフの心情を汲むんだよ…。
漫画家のあさりよしとお先生は「宇宙家族カールビンソン」の中で
ズバリ「要塞警察」なるエピソードでアイスを買いに来たコロナが
近所の悪ガキに銀玉鉄砲で「射殺」される模様を描いて
本作に最大の敬意を払った。
漫画家の長谷川哲也先生は
「ナポレオン 覇道進撃」の作中…
ウディノ元帥が名も無き気丈な婦人と
コサックの大群に包囲される模様を描き…
「アラモ砦」と「要塞警察」に最大の敬意を払った。
ウディノが「女にしとくのが惜しい」と女性に対する
最大の誉め言葉を贈った気丈な婦人は
「要塞警察」の警察事務員のリーがモデル。
リーは拳銃が使え素手での格闘も出来…
利き腕を撃たれても些かも闘志が衰えず…
逆手で銃を撃ち続ける活躍を見せ…
ナポレオンと奇妙な連帯感を共有しながら
最後まで籠城戦を戦い続けるのだ。
ナポレオンがあれ程欲していたタバコを…
リーがくわえさせ…
火を点ける場面の余りの美しさにウットリする。
作家の菊地秀行先生は本作をTV吹替(本邦初公開)で観て感激し,
同監督の「ハロウィン」を京成線の青砥まで観に行き,
キネマ旬報の読者投稿欄に本作の感想を送る入れ込み様で,
本作を
「人間から言葉,弾丸から閃光と銃声という
本源性を喪失させただけで,
とてつもない恐怖を盛り上げた実験作だった」
と大絶賛。
キネマ旬報は先生のこの原稿を没にしたが
「本当に言いたい事」がある場合,
自分が作家である矜持だの原稿料だのが全て消し飛んで
「俺はどうしてもこれが書きたいんだッ」
って創作者の本能だけが残るのだ。
少女がギャングに撃たれて死ぬ場面を
全米映画協会(MPAA)=向こうの映倫が問題視し…
カットする様要請されたカーペンター監督は配給先に相談すると
「問題の場面をカットしてMPAAに見せて映画公開の際に繋げ」
と言われ,その通りにしたという。
この場面は絶対に必要なのだッ!
特典映像の「要塞警察」のファンの集いの模様で
カーペンター監督は2つの映画の影響を受けたと語る。
既に解説した通り…
ひとつは「リオ・ブラボー」。
特にビショップがナポレオンにショットガンを投げ渡し…
ナポレオンが振り向き様に撃つ場面が素晴らしいオマージュとなっている。
もうひとつはロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」。
「ナイト~」は低予算で映画を作る監督なら
全員影響受けてるよと監督は語る。
「ナイト~」は低予算で映画を作る教科書なのだ。
本作品は日本では劇場未公開でTV放映が本邦初公開であり…
つまり多くの日本人にとってTV放映が「初見」なのだ。
つまり多くの日本人にとってTV放映が「初見」であるなら
日本語吹替で初めて本作品に触れられた方が多いと言う事だ。
従って円盤の第1音声には最も馴染みの深い
日本語(吹替)音声が据えられるべきであって
円盤再生装置に円盤をセットしたなら
登場人物は日本語で会話しなければならないのだ。
「思想」こそが「仕様」の主人であるべきで…
本円盤も「真夜中の処刑ゲーム」のブルーレイ同様
第1音声が日本語吹替音声となっている。
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