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ギャスパー・ノエ監督の映画「ヴォルテックス」レビュー「「ヴォルテックス」はッ!アルジェントとニコロディの「最後の日々」を夢想したノエの一次創作同人誌なんだッ!」

過日ギャスパー・ノエ監督の「クライマックス」の
レビューを書かせていただき,
その中でノエくんが「サスペリア」とアルジェント監修版「ゾンビ」に
大いに敬意を払っていると指摘した。

そもそも「クライマックス」を視聴したのは
ノエくんの新作の「ヴォルテックス」(2021)に
アルジェント監督が主演すると知り
「アルジェント映画」として観る気でいたから
「クライマックス」で「ノエくんの傾向と対策」を
立てておこうと思ったのだ。

また半年ほど前に劇場公開された「ヴォルテックス」を
観に行った若い女性がnoteにレビューを書かれていて…。
恐らくその子はノエくんのファンなのだろうが…。
アルジェントのコトを「主演のおじいさん」と抜かしくさって…。
「ダリオ・アルジェントも知らんアマっ子が映画通を気取るのかッ」
と持ち前の鉄火の血が瞬時に沸騰し…。
「半年待ってくれ!オレが本当のレビューを書いてやる!」
と山岡士郎と化して公約していて…。
本日漸くその公約を果たすコトが出来ると言うワケだ。

ノエくんの作風で特筆したいのは「分かり易さ」であって
「クライマックス」でも冒頭に映画を作るのに参考にした文献と
映画のVHSビデオを山積みして固定カメラで映し続け…。
「コレさえ読んで観ておけばボクの映画は理解出来るよ!」
と情報を開示する親切ぶり!
またノエくんのスキな映画が「サスペリア」,アルジェント監修版「ゾンビ」,イザベル・アジャーニの「ポゼッション」と
僕と映画のシュミが非常に合いノエくんと僕は年齢が2歳しか違わず
アルジェントをリアルタイムで体験しているコトが分かり
俄然好感度が爆上がりとなった次第である。

つまり…ノエくんはアルジェント大好きっ子なのだ。

さてさて。
年寄りは前置きが長くてイカンね。
お待ちかねの「ヴォルテックス」のレビューに取り掛かろうか。

年老いた夫(ダリオ・アルジェント)と妻(フランソワーズ・ルブラン)が
ふたりで暮らしている。
夫は映画評論家で妻は元医者。
ふたりの間には息子(アレックス・ルッツ)が生まれている。
ここのところ妻の老耄が急速に進行し
夫の原稿を破ってトイレに流して捨てたり
譫妄(せんもう)に取り憑かれ
夫のコトを頭がおかしいとかあの男(夫)が一日中家に居るとか
あの男が一日中付いて来るとか言い出して
てんかんの薬を調合して投与してやろうかと息子に相談したり…。
息子はふたりを介護老人設備のあるマンションに移転させたいが
夫は頑として応じず
妻は「迷惑かけて申し訳ない・死にたい」と泣き出す有様。
夫も3年前に心臓病を患い大手術をしていて,
もし夫が倒れたなら夫婦はどうなるのか…。
息子はドラッグに依存し精神を患って入院させられた経験があり
息子の嫁もドラッグに依存し2度の入院経験があり別居中…。
夫も息子も収入より支出の方が多く家計は火の車…。
幼い孫の心が父,母,祖父,祖母の4人がかりで無造作に傷付けられて行く…。

一体どうすればいいのか…。

ノエくんはさあ。

アルジェント映画の「黒手袋の殺人鬼」を
ままならぬ人生をスパっと切断してくれる
「救い主」と思ってるんじゃないかなあ…。
ままならぬ人生を送るノエ少年の魂が…。
アルジェントのジャッロ映画を観てる間だけは辛い現実を忘れられて…。
映画を観て「夢の様なひととき」を過ごして映画館の外に一歩出ると…。
「クソみたいな現実」が「ようこそお帰り」と待ち構えていて…。

要するにさあ。

アルジェントのスタイリッシュな殺人鬼に惨殺されるのが「ハレの日」で
映画館を出た途端に「ハレでないどんよりした日常」が無限に続くという
「真実の後半」をこの映画では延々描いてるのよ。
気分爽快になんかなるワケがない。

この映画で再三再四出て来る言葉に
「人生は夢ね」
「人生は夢の中の夢だ」
があって…。
ノエくんにとっては映画の「中の世界」こそが人生で…。
なんで人生が夢の様に過ぎ去ってしまうのかと詠嘆してる。
「夢の中の夢」
が速やかに過ぎ去って…。
一瞬も目を話せない認知症の妻,精神病院への入院歴のある薬物依存の息子,
薬物依存で二度の入院歴のある息子の嫁,
ただひたすらに魂が傷付けられ続けている孫…。
という「現実」が執拗に追って来る…。

ノエくんはさあ。

「夢の様な時間」を与えてくれた
アルジェントと
アルジェントの公私共のパートナーだったダリア・ニコロディに
この映画を捧げてふたりを映画の中で並べて死なせてやったんだよ…。

ダリア・ニコロディが2020年11月26日午前,70歳の若さでこの世を去って…。
ノエくんのアルジェントとニコロディに
揃って自分の映画に主演して貰う夢が頓挫して…。
ニコロディの代役として急遽フランソワーズ・ルブランを立てて
映画「ヴォルテックス」を大急ぎで作って
映画の中でアルジェントとニコロディの葬式を行ったんだよ…。

コレは…僕の妄想なんかじゃありません。
映画の最後で葬式会場でスライドショーが行われるんだけど
若き日のアルジェントと…。
アルジェントの隣に…若き日のニコロディがいるべき位置に
若き日のルブランの画像がハメ込まれてる。

つまり…ルブランは「ニコロディの代わり」なんですよ…。
「代役」を立ててでもノエくんは自分の映画で
アルジェントのニコロディの「最後の日々」を描きたかった。
アルジェントとニコロディの臨終を描きたかった。
アルジェントとニコロディの葬式を描きたかったんだッ!

映画の最後に…。
アルジェントとルブランの没年が「2020年」と表示される。
「2020年」はニコロディの没年なんだッ!
ギャスパー・ノエはッ!
「2020年」にアルジェントとニコロディを!
仲良く死なせてやりたかったんだッ!
この映画は!
2021年早々に作られる絶対の必要があったんだッ!

本当にね…ノエくんのアルジェントとニコロディへ捧げる愛の重さに…。
思わず貰い泣きですよ…。

ノエくんは「愛」が重過ぎて…。
現実が自分の描いた「絵」の通りでないのが許せず
現実を絵に近付ける強引さを発揮してる。
ニコロディが先に他界したなら例え代役を立ててでも
例えアルジェントが生きていようとも
絶対にアルジェントとニコロディを同じ日に死なせ
何が何でもふたりの共同葬式を強行するのだ。

ノエくんが…余りにも夢見がちな同人作家過ぎて眩暈がするよ…。
「アルジェントとニコロディを絶対同じ日に死なす」
と決めたら必ずそうするトコロが特にね…。
「自分の夢を絶対に現実化する」
のは同人作家の一大特徴なんだ…。

映画の最後にアルジェントの
「薬物依存で二度の入院歴のある娘」が登場する。
ノエくん…絶対にアーシア・アルジェントを意識してるでしょ…。

ノエくんの映画の「コドモ」は何で地獄の真っ只中に立たされるの?
アルジェントの息子が現実が辛過ぎて薬物に依存してラリってる場面に
「息子」が登場し…薬物に逃げて溺れる「父親」を
じっと見詰めている場面が…この映画一番の地獄絵図でした…。

「ヴォルテックス」の円盤は…。
「サスペリアPART2」の円盤の隣に並べるのが
一番 「正しい」って分かったよ…。
何故なら「ヴォルテックス」は!
アルジェントとニコロディの
「最後の日々」を夢想したノエの一次創作同人誌なのだからッ!

こんな…重たい愛の映画が…二十歳そこらの娘っ子に理解出来る筈もない…。
そもそも一般人に同人魂(ドウジンスピリッツ)が理解出来よう筈もない…。
「主演のおじいさん」と抜かした事は許してやるから何処へなりと行け…。

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