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映画「ゾンビ9」レビュー「娯楽を受動的にボケーッと甘受する方には娯楽を能動的に貪欲に貪る人間の気持ちは分からないと思います。」

「しっかしはええもんだぜ」
「ロメロ監督の畢竟の大傑作「ゾンビ」も早9作目」
「もう「ゾンビ」サーガと言っても過言じゃねえ」
「「ゾンビ2」が東宝東和に「サンゲリア」って邦題を付けられたり」
「そのサンゲリアに「サンゲリア2」って続編の続編が出来たり」
「「サンゲリア2」の原題が「ゾンビ3」だったり」
「「サンゲリア2」じゃねえ「ゾンビ3」も現れるし」

…切りが無いのでこの辺で止めておくが
本作の「本名」は「ゾンビーズ・フロム・セクター9」といい
略して「ゾンビ9」と名乗っているだけで
ロメロ監督の「ゾンビ」とは赤の他人である。

粘土状のイカ型エイリアンが原発を襲いメルトダウンを引き起こしたのを
切っ掛けに死者が甦り,アメフトのプロテクターに身を固めた武装集団が
跳梁跋扈し始める。
政府はこの地域を「セクター9」と呼び,隔離閉鎖するのであった。

缶ビールを飲みビザを食べながら昔のホラー映画のVHSビデオを観るのが
趣味のボンクラ,ブックワッカーは妻を武装集団に見殺しにされ,
息子をゾンビに喰われ,両者に敵対する「ハンター」の立場に身を投じる。
彼は成り行きでゾンビに噛まれても感染しない「希望」と呼ばれる少女を
守るヒーローとして覚醒を開始するのであった…。

壁に「エクシスト」「サスペリア」「ガバリン」「ドラゴンボールZ」
「聖闘士星矢」等々のポスターを貼り,「バッドテイスト」のTシャツを着て,
ヒーロー御用達の指抜きグローブを装着するホラー映画好きのデブ,
ブックワッカーとは即ち「僕達」であって,
ショットガンやマチューテ,チェーンソーを獲物に
ゾンビや武装集団を片っ端から退治して
「死んだゾンビだけがいいゾンビだ!」
とビシッと台詞を決めるのは
「僕達がやりたかった事」。

本作にはそうした「オタクちゃんの夢」がギッシリ詰まっていて
自ずと恵比須顔になります。

いい映画。

本作は途中までは結構真面目に作ってるのですが
金が無くなったのか能力の限界に到達したのか
急に終わります。

最後にブックワッカーが指を立てるのは
カーペンター監督の「ゼイリブ」の引用かしらん。

本ソフトには短編映画「ブライドゾンビ」「スライム」が
字幕付きで収録されていて,
特に後者は「溶解人間」「吐きだめの悪魔」好きには堪らないと思います。

本編の話に戻ると「ゾンビ」のロジャーの台詞や
「死霊のえじき」のローズ大尉の台詞も流用されていて
ボンクラ映画ファンも納得の出来ですね。

高カロリーの菓子を炭酸飲料で流し込みながら気楽に楽しめる1本です。

兎に角ねえ重度のオタクが一念発起して,
これまで観て来たボンクラ御用達の映画の知識を総動員して
映画を作ってるのでオタクはニヤニヤしながら楽しめると思いますが,
映画にはキチンとした脚本があるべき(キリッ),
起承転結があるべき(キリッ)という
「あるべき」論者の方はきっと怒り出すと思う。
だって余りにも行き当たりばったりで支離滅裂なんだもん。

でもさ。

大抵のゾンビ映画って「こんなもん」ですぜ旦那。
インディーズ映画にしては「しっかりしてる」と僕は思いますが
ウエルメイドで90分で全ての伏線をキチッと回収して,
一切後腐れが無くて,晴れやかな気持ちで映画館を後にする様な
昨今の映画に慣れた映画を遊園地のアトラクションの一種と考え
「さあワタシを楽しませなさい!」
って姿勢で映画を観る方には辛いかもね。

何故なら観客が積極的に「良かった探し」をしないと
「良かった点」がひとつも見つからないからで,
「詰まらねえ映画」と付き合った経験の無い人には
「ナニコレ。なんでワタシを楽しませないの!」
って絶対思うだろうね。

つまり!受動的にただボケーッと娯楽を甘受する人には決して微笑まず
能動的に貪欲に娯楽を貪る人にしか微笑まない映画があるんです。

本作が後者の典型なのですよ。
ま,当たり障りのない言い方をすれば「非常に人を選ぶ」映画ってコト。

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