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ヤン・シュヴァンクマイエル監督の「アリス」ブルーレイレビュー「子供にとってのワンダーランド…「家の中」大冒険を堪能しました。」

ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を原作とする
チェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルが
3年の歳月をかけて完成させた
実写とストップモーション・アニメを組み合わせた映画。
彼にとっては初の長編映画にあたる。
本編はチェコに現存していた
オリジナルフィルムをHDでテレシネし汚れや傷などを修復。
今回チェコ語音声と英語音声を始めて同時収録した
ノーカット完全版のリリースとなる。
この度Amazonで半額で投げ売りされていたのを保護,
初の視聴となった次第である。

子供にとっての「世界」とは多くの場合,「自分の家の中」であって,
本作においてアリス(クリスティーナ・コトフォヴァ)に与えられたカードは
剥製,標本,食糧貯蔵庫,編み棒,裁縫針と糸,
机,トランプのカード,クッキー,インクといった
「彼女の家にあって日常的に眼に触れるもの」
ばかりであって,そうした日常に「かりそめの命」が吹き込まれ,
生き生きと動き出し,彼女は「次のワンダーランド」,
即ち「隣の部屋」に移動する為の
文字通りのキーアイテムとなる「鍵」を探し出し,
クッキーやインクを飲食して,体の大きさを変えたり,人形になったり,
瀬戸物の像になったりしながら「家の中」を冒険して行く構成。
例えは適当でないかもしれないが
アドベンチャーゲームをプレイしてる感覚。
オガクズを零しながら先を急ぐ剥製の「慌て兎」や
二言目には首を刎ねようとする「ハートの女王」も登場する。
アリスは限られた手札で想像力を総動員して世界を構築し,
世界に隠されたルールを見出して困難を切り抜けて行く。
慌て兎にしてもハートの女王にしても日本人オタクが考える所の
「萌え要素」はゼロでハッキリ言ってちっとも可愛くなく
寧ろグロテスクと言っていい。
だがそのグロテスクなクリーチャーの所作は愛嬌に溢れ,
造形よりも所作で萌えさせて行くのが
日本のアニメとの最大の違いかも知れない。

ストップモーション・アニメは良く動き,
日本のアニメオタクの端くれの僕の特撮マインドも満足した。
画像はスタンダードサイズで画質は良好。
登場人物はアリス1人だが,異形のクリーチャーが
沢山人形アニメで登場するのでちっとも寂しくない。

特典はポストカードが3枚とリバーシブルジャケット。
映像特典は監督の絵コンテが7分間程紹介される。
日本のアニメの絵コンテに慣れた身の上には
造形に萌え要素の無い絵コンテを観て
「絵心がない」と思わず口走ってしまいそうだが,
日本であろうとチェコであろうとアニメは「動いてナンボ」なのだ。
動き出して所作から迸る萌え要素を堪能出来て
豊かな3連休の最終日を迎えられた。

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