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ブラッチャヤー・ピンゲーノ監督 トニー・ジャー主演の映画「マッハ!!!!!!!!!」レビュー「本作は…トニー・ジャーによるムエタイ超絶アクションと仏教説話が共存する奇妙な味わいの映画ですね…」

タイの長閑(のどか)な田舎の村ノンプラドゥに
24年前に建立(こんりゅう)された「オンバク」と呼ばれる仏像が
安置された寺院があり…24年前に寺院の階段に捨てられていた赤ん坊は
ティンと名付けられ…今や24歳の若者(トニー・ジャー:浪川大輔)となり…
大樹の頂上に設定された旗を若者が奪い合う祭事で見事旗を奪い…
「福男」となる程逞しく成長していた…。

24年前を知る村の者たちはティンを
「オンバクの双子のきょうだい」と呼ぶのだった。
「オンバク」は村に繁栄と平和と豊穣を約束すると信じられている…

そんなある日…「オンバク」の仏頭が
ドン(山路和弘)というバチ当たりに盗まれた。
ドンは盗んだ仏像を売却して利益を得る
首都バンコクに拠点を置く
ヤクザものコム・タン(池田勝)の子分なのだ。

村の者たちは村に必ずや大きな災いが降りかかるに違いないと嘆き悲しみ…
仏頭を取り返す有志を募ったところ…ティンが立候補し…
村民はなけなしの金を集めティンに託し…
彼は村出身のハム・レイ(後藤哲夫)を頼ってバンコクに向かう。

だがバンコクは賭博・麻薬・犯罪行為が跳梁跋扈する魔都と化しており…
ハム・レイは魔都の瘴気にやられ…
都会の悪癖に染まる放蕩息子と化していた…。

ティンはハム・レイに所持金を盗まれ…
行きがかり上,止む無く
賭けストリートファイトに参加する羽目となる…。
ティンはノンプラドゥの寺院でムエタイの修行を受け…
今やムエタイの奥義の秘奥を極めんとしているが…
尊師からはムエタイを殺法に用いるコトは禁じられている…

だがそうも言っていられない…
賭けストリートファイトの胴元こそがコム・タンであり…
「勝ち続けるコト」が
コム・タンに接近する早道であると判明したからである…。

本作が2004年に日本で公開された際…
SNSの動画を通じてクロックワークス社は次の様な宣伝を行った…

1.CGを使いません。
2.ワイヤーを使いません。
3.スタントマンを使いません。
4.早回しを使いません。
5.その代わり…最強の格闘技ムエタイを…死ぬ程使います…。
6.その結果として当然…主演のトニー・ジャーに怪我が絶えません…。

本作は…「トニー・ジャーによるガチンコ・ムエタイアクション映画」
という側面があり…。

車を幅飛びで越え…
4WDカーを開脚スライディングでくぐり抜け…
直径50cmの有刺鉄線の輪を
体を折り畳んで走りながら飛びくぐり…
2枚のガラス板の50cm程の間隙を側転しながら走り抜け…
両足にガソリンが引火し
燃え上がった状態で「炎の回り蹴り」を決め…
全体重をかけた重い重い肘と膝が
「ゴッ」と嫌な音を発しながら神速で頭蓋に命中し…。
ムチの様にしなる脚から繰り出される
音速の蹴りが頭に炸裂するのである…。

ムエタイ使いは…一撃必殺のアタマしか狙ってこねえ…。

「ムエタイ使いに追われたら死を覚悟すべし」

当時本当にこう言われていたのだ…。

トニー・ジャーは…演技力云々よりも
ムエタイ使いとしての驚異的な身体能力を買われており…
その結果として口を開けば「オンバクを返せ」としか
言わせて貰えないという「弊害」が生じる…。

その「弊害」を緩和する為に
ガチなアクション担当はトニー・ジャーに任せ…
演技が達者なベットダーイ・ウォンカムラオが
コメディリリーフとして放蕩息子役を演じ…

本作のもうひとつの側面…
「都会で不良になった放蕩息子が仏様の導きで更生する」
という仏教説話の一面をじっくりとその演技力で魅せているのだ。

放蕩息子が「悪党」として一度死に…
「仏法の帰依者=坊主」となって再生する結末に
その特徴が顕著に顕れている。

仏教説話の特徴に「因果応報」を教えるという側面があり…
ソレは本作では次の様に描かれる…

ティンは巨大な仏像を発掘し…その仏頭を切り離して売り捌こうとする
コム・タンを発掘現場に追い詰める…。

コム・タン「この(オンバクの)仏頭がソレ程大事かっ」
「こんなモノはただの石ころだ…」
「神でも仏でもないっ」
「『神』なんてこの世にはいないっ」
「もし居るとするなら…」
「ソレはオレだっ」
「オレが神であるっ」
「こんな石ころではなく…」
「オレを崇めろっ」

放蕩息子のハム・レイは…
途中で改心したから救い様があったが…
コム・タンには救い様がなく…

発掘中の仏像の仏頭がコム・タンに倒れ…
神も仏も信じないコム・タンは…
「ただの巨大な石ころ」の下敷きになって果てる…。
コム・タン…オマエにとってコレは「事故」であり…
「バチ」などでは無いのだろうよ…。
とんとおっかねえはなしだ…。

「オンバク」の仏頭が村に戻り…
出家して金髪の坊主となった
放蕩息子が象に乗って村に戻る場面で映画は閉じる。

「オレはジャッキー・チェンの映画から多くを学んだ」

特典映像の監督の言葉通りエンディングではNG集が流される…。
無限に続くNGの結果として本作が完成したコトが良く分かる…。

本作が高く掲げたスローガンの実現の代償が
全身に包帯を巻かれ…
車椅子姿になったトニー・ジャーの姿だと描いて
今度こそ本当にこの映画は閉じる。

「格闘技アクションの原点に帰りたい」と…
「言う」のは簡単だが…「やる」のは命懸けなのだ…。


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