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映画「里見八犬伝」レビュー「僕の家の窓から伏魔殿が見える。」

僕が大学受験に向けて,これまでの人生の中で最も勉学に励んでいた頃,
ある噂が瞬く間に広がり,校内が騒然となった。
それは
「薬師丸ひろ子が新作映画の撮影のため城山に来ている」
という噂である。
僕が住んでいる地域には山があり,かつて山頂に城があったのだ。
僕は噂話には関心がない。
なぜなら駅前のデパートの屋上に「ミラーマン」が来る
「レインボーマン」が来る
「死ね死ね団」が来る
近くの神社の境内に「デンセンマン」と「ベンジャミン伊東」が来る…。
来る来ると噂されながら実際に来たのは「解散発言」後に市民センターに
コンサートにやってきた「キャンディーズ」だけだったからである。
もうね。「来る来る詐欺」は沢山なんだ。
葉隠覚悟の如く「ときめくな俺の心,揺れるな俺の心」と
自分に言い聞かせより一層勉学に打ち込んだ。
予想通り薬師丸ひろ子は来なかった。

薬師丸ひろ子主演の新作映画のタイトルが「里見八犬伝」であると判明したが僕にとっての「里見八犬伝」とは滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」,
若しくはNHKで放送された連続人形劇「新八犬伝」しかない。
したがって本作品を実際に視聴したのは僕が大学生となり池袋に下宿して
初めての新年を迎え深夜にテレビ放映された際が初見となる。

本作品の見どころは夏木マリ様の怪演と
真田広之と志保美悦子と千葉真一と目黒祐樹の殺陣である。
目黒祐樹は「里見八犬伝」とは縁があり「目黒ユウキ」名義で
「里見八犬傳」(1959年),「里見八犬傳 妖怪の乱舞」(1959年),
「里見八犬傳 八剣士の凱歌」(1959年)の3部作を通じて
里見義通役を演じている。
本作品においては敵の妖怪役を嬉々として演じている。

僕が大学生の頃,ファミコンブームの真っ只中で僕もゲームにハマり,
本作の多分にゲーム的な設定が受け入れやすくなっていたのだと思う。

角川春樹は時代劇において黒澤明監督の「七人の侍」の菊千代役を演じた
三船敏郎の演技を相当意識していて真田広之を「第2のミフネ」に
したかったのだろうなと思い当たる節が本作品に限らず他作品においても
そこかしこに見受けられる。

また本作品は北米で「Legend of the Eight Samurai」として
公開されているが評判は芳しくない。

静姫役を演じた薬師丸ひろ子については所謂「濡れ場」を体当たりで
演じているが如何せん尺が長すぎるように思える。
「ターミネーター」のサラ・コナーとカイル・リースの
絡み程度で十分だと思う。
薬師丸ひろ子の殺陣については…真田広之と目黒祐樹との真剣勝負の際,
真田広之に加勢したい気持ちは分かるが,その気持ちだけで十分だと感じる。
有体に言えばチョコマカと右往左往することは「殺陣」とは呼べないのだ。

以上,本作品についてああだこうだと述べてきたが僕の個人的環境故に
本作品には特別の思い入れがあり5つ星評価せざるを得ない。
なぜかって?
それは僕の居室の西の窓を開くと本作品で紅蓮の炎に包まれながら
土砂崩れを起こしながら水没した筈の伏魔殿が
今や城山の頂上に再建され,観光名所となっているからである。

僕が町中を散歩していると「里見氏を大河ドラマに!」の「のぼり」が
見受けられるが,そりゃ無理ってもんだと心の中でツッコミながら
散歩を継続するのが僕の日課となっている。

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