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映画「肉の蠟人形」(1997年)レビュー「手が金属製の「親の仇」を追え。」

1900年12月31日,すなわち19世紀最後の日に
フランス・パリで非業の死を遂げた夫妻にはベッドの下に隠れて難を逃れた少女…娘のソニアがいた。
両親の仇は手が金属製という特徴があるものの
結局犯人を特定するには至らなかった。
ソニアは叔母に引き取られ養育されたのであった。

それから12年の歳月が流れソニア(ロミーナ・モンデロ)は美しく成長し
イタリア・ローマで叔母と共に暮らしている。
ソニアは間もなく新築公開される蝋人形館の蝋人形用の衣装係の求人情報を頼りに面接に赴くも館長の秘書であり,また館長の一番弟子を自負する
アレックス(ウンベルト・バッリ)から
「たった今求人枠は埋まったので,お引き取り願おう」と言われてしまう。
そこに館長であり芸術家でもあるボリス(ロベール・オッセン)が割って入りソニアを一目見るなり採用を決定し
明日から勤めに来るよう彼女に指示するのであった。
ソニアは自分の裁縫能力を確かめもせずに
採用を決定するボリスに不審感を覚えるものの
不審な採用の取り消しを申し立てる程,彼女は間が抜けている訳でもない。
かくして彼女の就職先が決定したのだった。

実際に働き始めるとボリスは愛おし気な眼差しをソニアに向け
彼女の背後から肩をそっと抱き
かつて心から愛していた女性が身に着けていた首飾りを
惜しげもなく彼女に贈り
もし彼女が構わなければこの蝋人形館で住み込みで働くよう提案する有様。

僕がソニアだったらこんなセクハラ職場,気持ち悪過ぎて即刻辞職してるね!

アレックスはソニアに対するボリスの寵愛ぶりが当然ながら納得できず
ソニアに「あまりいい気になるなよ」と恫喝してくる。
おう小娘「一番弟子」の座は譲らないぞ。

そんなある日,夜の蝋人形館に,ひとりの男が忍び込んでくる。
男は若いイタリア紳士で度胸の有無で賭けをして
蝋人形館で一夜を明かせば賭けは彼の勝ちとなるのだ。
翌朝,蝋人形館で件の男が遺体で発見された。
当初死因は心臓発作と診断されたが男の首に注射針を刺した跡が発見され、注入された内容物の成分を調査すると男が「誰か」の手によって意図的に
心臓の働きが弱まるよう仕組まれた可能性があるとの診断結果が出た。

この事件を取材する新聞記者の
アンドレア(リッカルド・セルヴェンティ・ロンギ)は巧みな手練手管で
ソニアに接近しあっという間にふたりは「男女の仲」となる。
やがてローマで次々と謎の失踪事件が相次ぎ,それに霊感を受けたかのようにボリスは新たな蝋人形を制作するのであった。

そんな折,とある少女が注射器を持った怪人に襲われ,
注射器から何らかの液体を注入されている最中に少女の母親が駆けつけ
誘拐は初めて未遂に終わる。
アンドレアが少女の話を聞くと少女に全身黒づくめの怪人の「手」が
触れたとき,まるで金属が触れたかのように硬く冷たかったと証言し
アンドレアから話を聞いたソニアは12年前の事件を思い出す。
勿論手が金属製の「親の仇」のことをだ。
果たして,今ローマを恐怖のどん底に突き落としている怪人と
「親の仇」とは何らかの因果関係があるのだろうか…。

本作品に関する病気により途中降板したルチオ・フルチ監督と
製作のダリオ・アルジェントの確執に関しては既に他のレビュアー諸氏が
詳しく解説されておられるので「同じこと」は書かない。
ただ本商品の再生が開始されると
「(本作品を)ルチオ・フルチに捧げる」
とのテロップが表示され,それで僕には必要十分なのである。

1997年に本作品が本邦で劇場公開された折
日本語字幕を作成されたのは市橋正浩氏であり商品説明欄を参照しても
市橋氏が日本語字幕を作成したことになっている。
だが実際に本商品を視聴すると
日本語字幕作成者は僕が敬愛して止まない
「正しい翻訳に基づく正しい日本語字幕」
をモットーとする落合寿和氏なのである。
本商品ではイタリア語,英語,日本語吹き替えの3種類の音声で楽しめるが
イタリア語と英語とでは「言っていること」に違いがあり
わざわざイタリア語音声用日本語字幕と英語音声用日本語字幕が
別々に用意されていて
この精密かつ丁寧な仕事ぶりこそ本商品の日本語字幕作成者が
落合氏であることの何よりの証明となっている。
つまり本商品は「新訳」を採用しているのである。

最後に本商品のパッケージ裏の「ストーリー」には
誤記があるので指摘しておく。
誤:事件の取材にあたる記者アレックス(ウンベルト・バッリ)は…
正:事件の取材にあたる記者アンドレア(リッカルド・セルヴェンティ・ロンギ)は…
アレックスは芸術家ボリスの弟子だっちゅーねん。
この誤記は当然ながら本商品の商品説明欄にもそのまま反映されている。

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