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アニメ「響け!ユーフォニアム」第3期第2話「さんかくシンコペーション」レビュー「「黒江の存在」「滝の申し出」「高坂の解釈」は全て「信頼とは何か」を描いているのである。」

第1話の最後に登場した謎のユーフォ奏者・黒江の正体は
全国大会出場の常連校・福岡の清良女子の吹奏楽部からの転校生だった。
高校3年生。
第1話で吹奏楽部顧問の滝が個別に黒江と面談してる描写があり,
同じクラスとなった黄前,川島,加藤,釜屋(姉)は色めき立つが
当の黒江は困った表情を浮かべる。

黒江「ホラ…ワタシ3年だし部のバランスを崩れたりしないかなって」
「(同じユーフォ奏者で部長の)久美子ちゃんは嫌じゃない?」
「ワタシのせいで「誰か」が楽器変わったり」
「コンクールに出られなくなったりしたら…」

…口調こそ穏やかだが黒江の大変な自信が伝わって来る。
自分の演奏で吹奏楽部のレベルが向上する事を広言するよりも
自分の演奏で「誰か」がレギュラーの座を追われ
吹奏楽部のバランスが崩れる事を危惧するのは黒江くらいであろう。
しかも黒江はその「誰か」…黄前に面と向かって発言しているのである。

京都アニメーションが2024年4月1日(エイプリルフール)に公開した
「誓いのダ・カーポ」というミニドラマを皆さんは御存知ですか?

黄前が学力不振で3年に進級できず留年し今年も2年となり
それでも部長の座から降りず久石や鈴木美玲,鈴木さつき達から
「留年したって事は同学年ですよね?」
「じゃあもう「先輩」じゃあありませんよねえ?」
「これからは久美子先輩じゃなくて久美子って呼んでも構いませんねッ?」
「久・美・子☆」
と舐められてタメ口利かれる話。

勿論黄前の夢でしたってオチが付くのだけど
黒江が黄前のユーフォ奏者の座を奪って
黄前がレギュラーの座を降ろされても
黄前は図々しく「部長」と名乗れるのかって
「伏線」になってるんですよね…このミニドラマ。

滝が北宇治に赴任してから「やってきたこと」は
「実力がある者が年次に関係なくレギュラーとなる」
って年功序列を排して実力主義に転向して
全国大会金賞を目指すって事なのですが
仮に黄前がレギュラーの座を降ろされ
より実力のある黒江が代わってレギュラーの座に就いても,
それは滝の指導方針から言って「当然」なのだけれど
高坂や塚本や川島は気心の知れた黄前に対して親近感を抱き
「黄前部長の元で全国金を目指したい」
って気持ちが強く黒江とでは全国金は目指せない。
黒江はそこまで見越して
「ワタシが吹奏楽部に入ると部のバランスが崩れ」
「宇宙の法則が乱れる」
と言っているのである。

第2話の隠しテーマは「信頼」で
信頼は共に過ごした時間と密接な関係があり,
2年一緒にやって来た黄前には信頼を抱けても
突然やって来た黒江に対しては信頼を抱けないのである。

滝は部長の黄前,副部長の塚本,そして高坂の3者を職員室に呼び
今年の自由曲候補3曲のうち,何れを選ぶか3者の合議で決めて欲しいと言う。

滝は赴任直後の小笠原晴香部長,田中あすか副部長のときも
翌年の吉川優子部長,中川夏紀副部長のときも
いちいちときの部長・副部長に意見を求めたりしなかった。
高校の吹奏楽は顧問が自由曲を決め,
生徒はそれに従うのが「当たり前」と僕も思っていただけに
「滝の申し出」が意外だった。

黄前の「それは…どうして…?」との問い対して
滝は3人に次の様に「理由」を説明する。
「いえ…特に大きな理由はありません」
「ただ…こういうことは色々試してみた方がいいかと思いまして」
「それと…」
「3人の事は入学した頃から知っているという事も大きいかも知れません…」
滝は…「人を信頼するには時間がかかる」と言っているのである。

つまり…「黒江の話」と「滝の申し出」は
「気心を知るには時間がかかり,気心の知れない相手は信頼出来ない」
と「同じこと」を言ってるのである。

3人はそれぞれ3曲の候補曲を聴く。
「雨夜(あまよ)の月」…物語性が強くて表現力が求められる…。
「蜻蛉奇譚(かげろうきたん)」…は技術力が求められる…。
「一年の詩(ひととせのうた)」…は表現力と技術力の両方が求められ,
どちらが欠けても貧相なものになる…。
高坂は滝が何故自分達に自由曲を預けたのかを考える。
そして到達した結論が「ワタシと久美子…そして塚本この3人だからだよ」。
「小笠原先輩とあすか先輩の関係じゃ無理で」
「優子先輩と夏紀先輩でも難しくて」
「でも…この3人ならって…」
「ワタシと塚本はそれぞれ結論を出している」
「久美子…アンタの「答え」は…?」

黄前は高坂の問いに次の様に答える。
「ワタシ…想像してみたの…」
「全国で北宇治が演奏するところ…」
「その最初の一音は何がいいかって…」

高坂「…何?」
黄前「クラリネット…」

黄前は「北宇治吹奏楽部部長として」答える。
3曲の中でクラリネットで始まる曲はひとつしかない。
高坂が手で隠していた「答え」…プレイヤーの再生ボタンを押すと
クラリネットの音色が聴こえてくる…。
曇天の合間から陽が差し始め
プレイヤーに曲名…「一年の詩~吹奏楽のための」が表示される。

高坂「…ね?」「だから言ったでしょ?」

今年の自由曲は部長の黄前,副部長の塚本,実力者の高坂の3者が
何ら合議を経ずして全くの別々の過程を経ていながら全く同じ結論…。
「一年の詩」が最適であるとの結論に到達する。

それは…例え如何なる登山ルートを辿ろうと
「頂上に向かう」最終目的が変わらない様に似ている…。

これが高坂の主張する「信頼」の結果だと!
部長以下幹部の意志が一体一丸となっていると描いて

「次の曲が始まるのです」

「シンコペーション」とは
ある小節から次の小節への「音の繋がり」の事を言います。
本作に於いては北宇治吹奏楽部の
先輩から後輩へと受け継がれる「音の繋がり」(タテの繋がり)と
1年の頃から苦楽を共にしてきた同期生の「音の繋がり」(ヨコの繋がり)を
「信頼」として描いているのです。

今回からOP/EDが付きます。
OP後半では滝の指揮の元,コンクールで合奏する模様が描かれており
「黒江の存在」が黄前の地位を脅かしたかの「答え」となっている。

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