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本多勝一編「子供たちの復讐」レビュー

元々は単行本で上下巻に分けれる程の大部の内容で文庫化に当たって1冊にまとめた物である。
親が子を殺し,子が祖母を殺した2つの事件について取材し,
父親が息子を殺し,母親が自殺した最初の事件は「子」が開成高校生だった為にセンセーショナルに取り上げられ新藤兼人氏は父親役を西村晃氏,母親役を乙羽信子氏に演じさせ「絞殺」という映画を製作している。

単行本の「上巻」に相当する第1章から第3章までは所謂「開成高校生事件」を公判法廷の傍聴記録,東京地裁判決が出て,検察が控訴して東京高裁で第二審が始まる前に自殺した母親の遺書,二審の傍聴記録,同級生達への取材,精神科医・神経科医への取材,弁護士への取材,有識者の寄稿と非常に多岐に渡る。
本多勝一「著」ではなく本多勝一「編」なのは本事件が新聞記者個人のキャパシティを超えて様々な人間の意見を聴く必要があったからである。

単行本の「下巻」に相当するのは子が祖母を殺し自殺した事件で「子」が自殺したため不起訴処分となり裁判は開かれてない。だが「子」は四百字詰め原稿用紙にして94枚に及ぶ非常に長文の「遺書」を遺し「朝日」「読売」「毎日」の各新聞社宛となっていたが実際には送付されず「子」は自殺した。「下巻」はこの「子」の遺書の分析が主たる内容となる。遺書によると殺すのは祖母に留まらず家族全員が対象であって如何に家族が死ぬに値する人間かがプライバシーガン無視で書き綴られていて到底全文掲載出来ない。その後,生きるに値しない「大衆や劣等生や馬鹿」を片っ端から殺して「ざまあみろ!」と叫ぶ予定だった様だ。単行本では遺書の9割が掲載されたが文庫本では遺族の掲載許可は遂に下りなかった。そんなの当たり前である。国民に「知る権利」があると言うのなら遺族には「静謐に暮らす権利」があるのだ。
故に「下巻」の前半は「子」の遺書を読んだ有識者の所見と「子」の同級生達への取材が残るのみだ。
「下巻」の後半は2つの事件の総括で「ススムちゃん大ショック」の作者である永井豪氏へのインタビューが掲載され映画「ザ・チャイルド」への言及もある。

本多氏のルポルタージュの得意手である取材相手の家に同居する密着取材は本書には登場しない。「カナダ・エスキモー」や「ニューギニア高地人」への密着取材は可能でも「アラビア遊牧民」や本邦では密着取材は決して許されないのだ。取材相手には「密着取材は絶対嫌だ」と拒絶する権利があるのである。

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