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ロビン・ハーディ監督の映画「ウィッカーマン」レビュー「黄昏」。

行方不明の少女ローワンを探すために英国本土から,
キリスト教以前の太陽神と豊穣神を崇める多神教の島サマーアイルに
やって来たハウイー警部(エドワード・ウッドワード)は,
婚約者がいても婚前交渉も控える程の厳格なクリスチャンで,
産めよ増やせよを旨とする豊穣神の影響で大変性に鷹揚な島民を観るにつけ

「無知蒙昧な異教徒共(PAGAN)め!」

と罵るのが島での口癖となった。

異教徒揃いの島での捜査は難航するがローワンの墓をあばいた所,
野ウサギ(ローワン)の亡骸が埋められているのを発見した彼は,
島で毎年5/1(メイデー)に開催される豊穣祭で生贄が捧げられ,
酷い飢饉の場合は家畜や農作物だけでなく
人間が捧げられる風習があることを突き止め,
今年が酷い凶作であることを踏まえ,彼女は未だ生きていて,
今年の豊穣祭の生贄に捧げられると推測した彼は,
豊穣祭に仮装して参加し,彼女の行方を探すのであった…。

ハーウィの口癖である
「無知蒙昧な異教徒(PAGAN)め!」
で用いられるPAGANにはスラングで童貞と言う意味があり,
この島の領主サマーアイル卿(クリストファー・リー)からすれば
ハウイーこそ異教徒(PAGAN)の童貞(PAGAN)なのであって,
神は唯一神ただひとりが正統で,多神教の神々などは異端の邪神であって
幾ら駆逐しても殺しても構わない, などという手前勝手な理屈は,
この島では通用しないのだ。

だがハウイーにはどうしても「他の神々」を受け入れる事が出来ず,
寧ろキリスト教が婚前交渉を慎む様教えているのだから,
島民も夜な夜な若い男女の集団が交わる淫らな風習を捨てて
キリスト教に改宗すべき,という理屈を最期まで押し通して行く。

ハウイーの価値観の異なる人々に対する不寛容な描写は非常に不快であって

「コイツ酷い目に遭って思い知ればいいのに」

という期待は裏切られはしないが,
彼は決して思い知らず島民と彼の思考は最期まで平行線を辿る。

まあ「お前は異教徒(PAGAN)だからして殺してもバチは当たらず,
童貞(PAGAN)だから生贄に最適」
って理屈は受け入れられねえよなあ。

ハウイーが死ねば.いずれ英国本土から応援がやって来て事が明るみに出る。 キリスト教徒達が島の野蛮な原始宗教を見て憐み,
島の豊穣神を殺し,太陽神をも殺し,性に鷹揚な古き神々を一掃した
後に性に厳格なキリスト教への改宗を強要しに神父がやって来る。

古き神々の死を予感させるかの様に豊穣神に捧げた
赤々と燃えるウィッカーマンの像が崩れ去り,
無邪気に豊穣の歌を歌う島民を照らす真っ赤な夕陽が沈んで映画は閉じる。

僕が以前に本作をDVDで観た時,
ハウイーはもっと悪あがきして
「これが豊穣の祈りなどであるものか!これは殺人だ(This is a murder!)」
と叫ぶ場面があった。
あれはディレクターズカット版だったのか…。
(本商品は劇場公開版である。)

あとね!クリストファー・リーのイケボぶりに惚れ直してしまった。

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