高畑勲監督のアニメ「母をたずねて三千里」DVD-BOXレビュー「マルコは…ネロと同じ地獄を味わい…死んだ母親と再会すべきだったんだッ!」
高畑勲さんが監督を務められた
アニメ「母をたずねて三千里」のDVD-BOXが…
全52話収録されて約40%OFFの1万円強で
投げ売りされていたので保護しました。
円盤1枚につき4話収録されて
全52話ありますから52話÷4話=円盤13枚組となります。
1975年からフジテレビ系列で毎週日曜日の午後7:30から放送された
「世界名作劇場」と言うのは…。
世界の名作児童文学を1年間というスパンでアニメ化するというもので…
1月初頭から放送を開始し…12月末まで放送するので…
「1年間」というのは…およそ52週から成り立ち…
毎週1話アニメが放送されると言うコトは…
52週×7日(1週間)+1日=365日=1年間ですから…
世界名作劇場は通常52話製作することが出来…
もし…端数の1日が日曜であり…アニメを放送したなら…
1年間に53話放送するコトが理論的に可能であり…
その理論を現実に強行したのが
1978年1月1日から同年12月31日まで全53話放送した
「ペリーヌ物語」であり…
元日から大晦日まで休みなしでアニメを放送し続けた
この驚異の(キチガイ)記録は…
絶対に抜くコトが出来ないと分かると思います…。
この「母をたずねて三千里」は…
「ペリーヌ物語」程のキチガイではなく…
1976年1月4日から12月26日迄の全52話ですから…
年末年始に休める分…
「ペリーヌ物語」より余程人道的と言えるのです…。
「母をたずねて三千里」と言うのは…
イタリア・ジェノバに住む
ロッシ一家の主婦アンナ(二階堂有希子)が
南米アルゼンチンのブエノスアイレスに住む
メキーネスという技師の家の家政婦として出稼ぎに行くも…
アンナからの手紙が途絶え…音信が不通となり…
彼女の消息が全く分からなくなります…。
ソコで…本作の主人公にして
アンナの息子マルコ・ロッシ少年(松尾佳子)が母親を探しに
ジェノバから海路でブエノスアイレスに向かう…という話です。
原作は「クオレ」という児童文学の名作の一篇であり
80頁程度のお話なのですが…
アニメ版は…本当に本当に本当に酷い酷い酷い内容なのです…。
…と言いますのもアニメ版は…
マルコを母親に会わす気がないんです…。
マルコがブエノスアイレスに着くと
メキーネスは転居していて母親の消息は分からない。
親戚のおじさんを頼って
バイアブランカという町に行くもソコにも母親は居ない。
ロクデナシのダメおじさんから
メキーネスはコルドバという町に転居したとの情報を得たマルコは
一旦ブエノスアイレスに戻って
先ずアルゼンチンの内陸の町ロサリオに海路で向かい…。
ロサリオでイタリア人の経営する「イタリアの星」という店で
カンパして貰い汽車でコルドバに向かう。
ところがマルコがコルドバの町に着くと…
メキーネスはトゥクマンの町に転居したと言う…。
一体…何故メキーネスは斯くも短期間に転居を繰り返すのか…
ソレは勿論…
「マルコに苦難と絶望を与える嫌がらせをする為」
だァァァ!
本作品で場面設定・レイアウトを担当された宮崎駿さんは
このときのコトをこう述懐されておられます…
「こんなフザケた話があるかっ」
「セガレが行っても行ってもオフクロに会えないっ」
この話は…マルコが母親と再会したら「終わる」ので…
監督の高畑勲さんはソレを百も承知で
マルコを母親に会わせないんです…
この…延々続く焦らしプレイこそが
「母をたずねて三千里」の本質であり…
マルコは早く母親と再会して歓びの絶頂に達したいのに
そうは問屋が卸さず…マルコは絶頂に達するコトを許されず…
「イガぜでよォォォ」
と泣きじゃくりながら高畑監督に哀願し続けているのに…監督は…
わっざっわっざっ南米アルゼンチンに…
マルコに凍死の恐怖を味わわせる為だけに雪を降らせ…
マルコの靴底が剥がれ…素足が露出し…ソコから雑菌が入って
足が化膿して膿(ウミ)で2倍の大きさに膨れ上がり…
マルコに跛行(足を引き摺るコト)しながら進ませ…
マルコは意識が朦朧としてトゥクマンに着いた夢を見る…
マルコ「メキーネスさんのお宅はコチラですね?」
「ぼくっアンナ・ロッシの息子のマルコ・ロッシですっ」
「イタリアのジェノバから…」
「このアルゼンチンまで母さんを探しに来たんですっ」
「母さんに会わせてくださいっ」
家政婦さん「おやおや…遥々ジェノバから…それは大変だったねえ…」
「でも…1日遅かったね…」
「オマエの母親は昨日病気で…」
「オマエがあと1日早くトゥクマンに着いていれば…」
「オマエは母親に会えたのにねえ…」
もうね。
高畑監督は…この世のありとあらゆる苦難と地獄を煮凝りにして…
僕達に「さあ…たんとおあがり」と振る舞おうと言うのですよ…。
こんなモノを日曜の夜に見せられて…
どうやって何事もなく…心に何の傷も負わずに…
翌朝の月曜に元気に学校に通えって言うんですか…高畑監督…。
本作品に於ける「希望」とは…
高畑「ホラ…早く歩かないとオマエの母親は病気で死んじまうよ…?」
「さあ…母親に会って歓びの絶頂に達したかったら…」
「『希望』とやらを原動力にしてキリキリ歩くんだよっ」
という意味しか無いのです…。
僕はてっきり…マルコがトゥクマンに着いたときには…
もう母親は病死してると思ってました…。
だって「世界名作劇場」は…
去年(1975年)に放送された「フランダースの犬」は…
ネロと犬はこの世では幸せになれず…一切報われず…
ルーベンスの絵の前で…ネロは犬と一緒に凍死して…
天使が迎えに来て…ネロと犬は…
あの世でしか幸せになれないって…
酷い酷い酷い…
この世の地獄を描き切ったんだよ?
斯くの如きモノを…クリスマスプレゼントとして
全国の良い子に贈るアニメスタッフは…
実に実に実に性根が据わってますよ…
僕は…「努力や苦労は必ず報われる」って考えは「甘え」だと…
「フランダースの犬」から叩き込まれたんです…。
マルコもネロと同じ地獄を味わうべきだったんだッ!
「母をたずねて三千里」は「フランダースの犬」程
「地獄度」が高くなく…
マルコは全52話中の第51話でようやく母親と再会できますが…
この期に及んでも監督の焦らしプレイは続き…
アンナ「海がみえる…マルコも…ピエトロ(マルコの兄)もいる…」
「ああ…とうとう帰って来たんだわ…もう何も…思い残すコトはない…」
マルコ「何言ってるのおかあさん…?」「目を覚ましてっ」
マルコは…散々地獄の底を引き摺り回された挙句…
ようやく…ようやく…
歓びの絶頂に達するコトを監督に許されたのです…。
でも…僕は今でも…マルコは…
たった今死んだばかりの母親と再会するべきだったと思ってます…。
「世界名作劇場」に於ける高畑勲監督の最高傑作は…
1979年の「赤毛のアン」であり…コレはもう絶対に動かし様がない…。
ですが…酷い酷い酷い地獄と…酷い酷い酷い児童虐待の極みと…
酷い酷い酷い寸止め焦らしプレイを1年間も見せてくれたと言う意味で…
僕は未来永劫「母をたずねて三千里」を個人的に推し続ける所存です…。
「母をたずねて三千里」は
遺伝子レベルで愛してる作品で…
どういうコトかと言うと…
OP/EDの前奏が流れ始めると…
48年前に植え付けられたトラウマが甦り…
スッと歌を歌い始めてるってコトなんだ…。
もうね…スキなのか憎いのか分からないくらい愛してるんだ…。
マルコと一時的に同道する
旅の芸人一座の座長ペッピーノを永井一郎さんが演じられ
「薄幸」を絵に描いた様な操り人形の芸を得意とする
団員フィオリーナを信沢三恵子さんが演じられてます。
円盤は日本語字幕のON/OFFが選択でき…
次の「あらいぐまラスカル」の番宣も収録されてます。
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