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オタク用語辞典「大限界(だいげんかい)」レビュー「本書は「オタク用語辞典」ではなく特定のゲームに特化した「ゲームオタク用語辞典」です」。

本書は名古屋短期大学の小出祥子准教授が主催するゼミナールに於いて
12人のゼミナール参加生徒によって
昨年(2022年)5月から11月迄の約半年間で編纂された
手作りの「オタク用語辞典」を
学祭で同人誌として約100部が頒布されたものが前身となっている。

つまり「オタク用語辞典」は当初同人誌だったのだが,
この同人誌が辞典・事典・六法関連書籍・教科書等の
出版で知られる三省堂の目に留まり
キチンとした辞典の体裁で出版されたのが本書となる。

本書の前身は同人誌であるが
本書は「三省堂から出版された辞典」なのであって
社会的信用の差は今更指摘する迄もないが,
逆に言えば「三省堂」の名を信用して購入した僕なのであるが
記載内容に不審あらば,
たちまちにして今まで築き上げた信用は一瞬で瓦解する訳で
三省堂の責任は重大であるし
「オタク」に明るくない方が本書の内容を信じ,
本書の記載内容が「オタク」及び「オタク用語」の
字引となって本当に良いものかと
「大昔のオタク」の端くれとして,
レビューを執筆する手にも自ずと力が籠るのである。

本書の最大の特徴は名古屋短期大学が女子大学である事から当然発する
「女性の手によって編纂された辞書」である点である。

本書の構成は全14章に別れ,
各章で50音順にオタク用語の意味が掲載されている。
第1章 オタク共通

第2章 三次元
三次元とはアイドル・声優・お笑い芸人・スポーツ選手等
実在する人物を指し,
アニメや漫画やゲームやそれらに登場する人物を
「二次元」と呼ぶ事に対する対比概念である。

第3章 男性アイドル
男性アイドルとは主に
ジャニーズ事務所に所属するタレント及びそのファンの事を指し,
「女性アイドル」という項目は本辞書には掲載されてない。
本辞書の最大の特徴(女子大生によって編纂された辞書)から
導き出される当然の帰結と言える。

第4章 K-POP
K-POPとはコリアンポップス,つまり韓国のポップスの事を指す。
K-POPに関しては
全くの門外漢で1項目たりとも理解出来ず確たる事は何も言えないが
若い女性の間で人気があるのだろうか。
何より本項目が「オタク用語辞典」の
1項目となる事に不思議な感慨を覚える。
僕はオイボレの爺さんなので
韓国というと金竜飛のチョムチョムしか思い浮かばない耄碌ぶりである。

第5章 2.5次元
本辞書に於いて「2次元」がアニメや漫画やゲームの登場人物を指し,
「3次元」が実在の人物を指すのは分かったが
「2.5次元」とは一体何だと思っていたら
アニメや漫画やゲームの舞台やミュージカルの事を指すと言うのである。
勿論僕が知ってる「セラミュ=美少女戦士セーラームーンのミュージカル」
など項目がある訳がなく
「刀剣乱舞」「テニスの王子様」の2作品の
舞台やミュージカルの用語が並んでいる。
「ファイナルファンタジー10」の歌舞伎の項目も無かった。

第6章 2次元
アニメや漫画やゲームの世界・実在しない人物を指すが,
2頁しか記載がない。
「テニスの王子様」の原作漫画に関する記述は1項目。
原作漫画に対する関心は薄いのかしらん。

第7章から第13章までは「ゲーム」に関する記述が続き全192頁あり
本辞書は総頁数260頁であるから全体のおよそ74%を占める。
つまり「オタク用語辞典」の本質は「ゲームオタク用語辞典」なのだ。
そのゲームにしたところでゲーム全体を指す訳ではなく
第7章ゲーム共通,第8章アークナイツ,第9章スプラトゥーン,
第10章ファイアーエムブレム(殆ど風花雪月とIF),
第11章プロジェクトセカイ カラフルステージ!(プロセカ),
第12章ポケットモンスター(ポケモン),第13章原神
という構成となっている。

本辞書に於ける「ゲーム」の項目の中で
僕が比較的詳しいのは「ファイアーエムブレム」となるが,
「グラディウス」に関する記述はこうだ。
『「暗黒竜と光の剣」にて登場した
アカネイア王家に伝わる三種の神器のひとつ。
アカネイア王ハーディンの武器としてのイメージが強く残っている。
用例「グラディウスと言えばハーディン,ハーディンと言えばグラディウス!」』

あのさ。

1.ハーディンがグラディウスを武器として携えるのは
「紋章の謎(英雄戦争)」に於いてである。
2.その際のハーディンの肩書は王ではなく(暗黒)皇帝である。
3.「グラディウスと言えば黒騎士カミュ,黒騎士カミュと言えばグラディウス!」だろうがあ!
と記述内容にいちいち異論がある。

ついでに言うなら用例も悪い。
この用例は辞書として内容が全く無いからで他にも
「同担拒否」を「同担を拒絶する事」と解説したり
「カップリング論争」の用例を
「カップリング論争が終結する日が来るのだろうか…」と
記述したりと「頭を全然使ってない」うえに
全く役に立たない手抜き記述が多いのだ。

僕だったら「グラディウス」の用例は
『折角苦心惨憺してグルニアの黒騎士団を退けたのに
騎士団長のカミュ将軍の名槍グラディウスの前に屠られ,
また最初からやり直しだあ!』
って書くよ!

ファイアーエムブレムの
「仲間になりそうでならない(キャラ)」の項の例として,先程紹介した
「暗黒竜と光の剣」の黒騎士カミュの名が挙げられてるのも
ファンとして到底看過出来ない。
カミュは「ファイアーエムブレム外伝」に於いてはジーク(記憶喪失)として
「紋章の謎」ではシリウス(ネプチューンマン)として主人公側に付き,
プレイヤーが操作出来るキャラクターとなっている。

オタクはなあ…初心者を懇切丁寧に導く優しさと
知ったかぶりに対して激昂する猛々しさを併せ持っているんじゃい。

オタク憲法第一条!
「知らない事は知らないと知ったかぶりせずに素直に言え!」

また「オタク共通」の「トゥンク」の解説はこうだ。
『ある人物を見て一瞬で恋に落ちる程のトキメキを感じたときに口から出る音。』

僕だったら
『「トゥンク」とは「ある人物に対しトキメキを感じ心拍数が急上昇した際の心臓の拍動音」の事で
昔は動悸(どうき)即ち心臓の拍動を色々な形で感じる事から
「ドキドキ」とか「ドッドッドッ」とかで
トキメキに伴う自分自身で感じられる自分の心臓の拍動を描写していたが
近年では「トゥンク」と描写される事もある』
って書くよ。
少なくとも「トゥンク」は「トキメいたときに口から出る音」じゃない。
「トゥンク」は!心臓の拍動音なんだ。
ゲップやアクビの類(たぐい)じゃないんだよ。
口を開けたって口の奥から心臓の拍動音が聞こえる訳ないじゃん!

また第1章扉の「オタク」の解説はこうだ。
『推しの為に自分が持つありとあらゆるものを投げ打つ事が出来る者』
僕だったら
『いい大人になっても漫画好き,アニメ好き,ゲーム好き,特撮好きが止められない
「自ら子供のまま成長を止めた「ブリキの太鼓」のオスカルみたいな人間』
って書くよ。

最終章(第14章)はBLで僕は全くの門外漢故に有識者の意見を待ちたいところだ。

全体を通した意見として
映画や漫画やアニメや特撮と言った分野に
関する記述が殆ど無いのが気になった。
「ゴジラ」も「ウルトラマン」も「仮面ライダー」も「推しの子」も
「チェンソーマン」も「エヴァ」も「劇光仮面」も本当に何もない。
若い女性のオタクの皆さんは
「ファイアーエムブレム」「ポケモン」「スプラトゥーン」といった
極一部のゲームに主たる関心があって,
それ以外のものにはさしたる関心が無いのであろうか。

またオタクが「隠語」を使って会話するのは
自分の「好き」を普通の人々に知られたくないのであって
「自分の「好き」を隠す必要なんてないじゃん!」
と公言する人々には「闇に隠れて生きる」妖怪人間の如き
オタクの「後ろめたい真情」は未来永劫分からないと思う。

それでもね。

「現代の若者言葉」を集めて解説する意義はあると思うし,
三省堂が一枚噛むのなら病的な生真面目さで詳細なる「オタク用語辞典」を期待したのだが,

「オタクは自分の関心のない事にはとことん無関心」

な性格が本辞書に色濃く反映されたと思う。

先に述べた通り本辞書はおよそ4分の3がゲーム,
それも特定のゲームに関する項で占められており,
それらのゲームに関心のない方には食指が動きにくいと思う。

最後に名古屋短期大学の偏差値は41。
偏差値40が1000人が同じ学力試験を受けたとして842位となる学力ですから
偏差値41は820位くらいとなります。
学力が人間の値打ちの全てではありませんが
語彙と博識を必要とする辞書の編纂には向かないと思います。

本辞書がオタクジャンル全方位に向かって解説されず,
特定のオタクジャンルに特化してるのがその証明である。

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