現代詩のための創作ノート或いは駄文日記「カラス」

(はじめに)
この文章は僕の生活が詩化する前段階のメモのようなものです。こういう駄文がそのうち詩になったりします。だからこの文章と良く似た詩をそのうち記事にすることもあるかもしれませんが、別に手抜きじゃないんですよ。

******

雑草を引き抜くことはもはや
彼らと私の戦争であって
いや若しくは絶対的権力(わたし)
によるGENOCIDEであって
まさに雑草の如き精神力を有する彼らとの
生存競争

なんてコトを考えながら
庭の砕石の上に胡座をかいて
躍起に草を引っこ抜いていると

「はいしゃ」とくぐもった唸り声がした
こういうのは大抵が
不可思議な空耳なので聞き流していると
今度は「ごーと」と声がする

「はいしゃ」と「ごーと」は実のところ同じ表音であって、それが「はいしゃ」と「ごーと」の両方の音に聞こえるのだ

この世に「はいしゃ」と「ごーと」の両方を
同時的に発語する者があろうかと周囲を見回すと
果たしてこれが誰もいない

誰もいない
いや いる
いない
いた

声の主は大きなカラスであった
頭上にいたカラスが電信柱の杭の上に立ち
遠く町並みを見渡している

そのカラスが「はいしゃ」或いは「ごーと」という類の言葉を人類に発している

不図 目があったような気がする
そして「はいしゃ」と言われた気がする

そういえば小さな虫歯が
一月ほど前からあって
いつ歯医者に行こうなどと考えつつも
先延ばしにしていた

だからといって
カラスに「歯医者」と言われたから
今日あたり歯医者に行こうなどとは思わない

若しくはごーと
GOATって山羊だ
生贄的な

生贄?
何に?




意味分かんないし

カラスの人類に対する警告は
意味を為さない
今日のところは

そして本文も詩にならない
今日のところは

*****

ただ
こうした出来事が数日を経て
新たな要素が加わることによって
途端に詩的抒情に変換されることがある
(最後まで変換されないこともある)

それは二羽目のカラス

或いは歯科医師
(歯科医師の奥さんが歯科衛生士兼クラークで会計の度に誕生日には歯科の定期受診をしろと仰るがそんなものには行かないし、(困るような)虫歯もないからもう何年も歯医者には会ってない歯科医師は元気だろうかもう高齢だからそろそろ廃業を考えていることだろう歯科医師には口腔内がお世話になった)

若しくははじめてのGOAT

******

「おい」と遠くから呼ばれた
そんな不躾な呼び声には振り向かないぜ

私は尚も雑草を抜いていた

野太い声で「まみたん」と呼ばれた
まみたん なんて呼ばれたって振り向かないぜ

このようなものは得てして
異界からの空耳だから返事をしてはいけない

返事をすれば恥ずかしいことになる
それにそもそもが
私は「まみたん」ではないし

雑草の根がスルスルと
地下深くから抜去された
大地の毛細血管
植物史の血脈
或いは私の

その断絶
GENOCIDE!

そして僕は振り向いた
(筆者 注※1)

僕はまみたんではない

だが
僕は

通りを挟んだ二階家屋の
外廊に腰掛けたおじさんと目が合った
ランニングシャツを着ている

「まみたん」
おじさんは言った

同じく外廊にいた黒くて大きい犬が
「わん」と吠えた

僕は「まみたん」ではなかった
「まみたん」は犬であった
僕は犬ではないので
したがって
「まみたん」では
ない

やはり異界からの言葉であった
道を隔てた向こうを異界と呼ぶことは
おこがましいのかもしれない
僕が異人なのだ
少なくとも「まみたん」にとって

*****
僕は「にんにくのステーキ」について詩を書かなければならない

昨日はひどい目に合った

一昨日食べた「にんにくのステーキ」が
僕を凌駕する
僕はにんにくだ
一匹の
野獣の如きにんにくだ

僕の物凄さに恐れをなして
誰も近寄ることができない
小市民たちを圧倒する
エンペラーとエンプロイ
間違えたエンパイアだ

にんにくは怖い
それを食べる人間が怖い

それを食べさせようとする上司が怖い

あからさまに僕を避ける君たちが怖い
君たちに問う
社会性とは
人間とは
何か

或いは僕は「さつまいもの蔓について」詩を書かなければならない
職場の机の水皿に置かれたさつまいもから
蔓が伸びる
森を作る

腐海は世界を浄化していると
女の子が言った
この腐りきった世の中を
浄化してくれ
蔓よ
蔦よ

僕(にんにく)を避ける人倫を
大地に根を張って
浄化してくれ

Detox!
漸く匂いが消えた
浄化されるべきは僕だ

ここでもまた

ここ数日一番心が通じたのは
先程現れたカラスかもしれない
「はいしゃ(ごーと)」

僕も挨拶するべきだった
きっと友達になれた
彼なら僕(にんにく)を忌避しない

たった一人の友達を
僕はなくしてしまった

*****
先週切り落とした柿の木の枝が枯れていた
紙ひもで束ねられている
これでゴミに出せる

ゴミ出し便利帳に
木の枝は枯らしてから捨てて下さい
と書いてあった
言わんとする意味は分かる

捨てるのに一週間かかった

柿の葉が萎びていく一週間
僕は萎びる柿の葉を眺めていた

カラスとの邂逅
縁遠い歯科医師
或いはカラスに捧げる
はじめてのGOAT

*****
※1 断絶によって一人称が私から僕に変化する
まみたんであるかもしれない不透明な私が
まみたんでは無い筈だがまみたんだったかもしれない不透明な僕に変化したとも言える

#小説 #現代詩 #詩人 #まみたん #日記