現代詩 「秋の海」

誰もいなくなってしまった
かいすいよくきゃくたちも
ぱらそるも
くらげも

砂浜に穴開けた蟹も
穴つついても何もない
其処此処の穴に
何もない

(先週の高波の日に海岸線は形を変えた)

漂着物も砂に埋もれて
波だけが知っている

砂浜に手首みたいな流木が突き出ている
それから鯨の背骨みたいな流木
と 戯れる犬みたいな流木

柔らかに鞣された命のかたち
ああ、これは僕の手だった

流木を並べて腰骨
脛骨と腓骨
あばら骨
顎骨
と、喉仏

これは胃袋みたいだね
面白いね

それからこれはお前の喉仏
小さなお前のてあし

波打ち際に再構築された僕たち
睦まじく 並み立つ

細波の笑い声

笑いながら

バラバラになれ波で

砂が光っているよ
煌々
砂ばかりじゃない

そらも うみも
お前も

同心円状に黒く残った焚き火跡に
お前はいない

南シナ海に蝶が飛んでも

秋の海には台風も来ない

(現代詩「秋の海」村崎カイロ)

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