没ネタ祭「夢日記 煙の中の海月シャボン」

これは夢日記です。未公開となっていた作品を没ネタ祭に乗じて公開します。

夜のカフェーで
カフェインに酔ひて
公園のベンチにフェルマータ
詩作に興じて
僕はそのまま眠ってしまった

「こんな夢を見た」

未完成であったはずの詩は
完成されて川原の町内掲示板に
張り出されていた
既に採点されている

あなたの詩は矮小で
胸躍る言葉に欠ける
と朱書されていた

振り返ると詩の友人
(既に交流途絶えて久しかった筈だが)が笑っていた
午後に散歩に行こうと誘われたのだ
彼女は川の中だろうが
漂着ゴミの中だろうが
葦茂る中をまっすぐ進む
まっすぐ まっすぐ

ねえ君 無意味な詩ばかり作るなよ
じっくりと君の人生が載った詩を作り給えよ
僕の言葉を無視して彼女は進む
持ち前の強引さで
倫理を突き抜けて
ひたすら真っすぐ

僕は倫理に従って舗装された散策道を伝い
彼女を追いかける
しかし 果たして
道を見失ったのは僕であった

川が満ちて水位が上がっていた
クラゲたちが夜に向けて
遡上を始める

気付いた時に 僕は
川岸の泥濘に嵌って
すっかり動けない
彼女は笑って
僕に木の枝を差し伸べるが
木の枝は掴んでもすぐに折れる

ポキペキ プキポキ
ペキポキ ピキピキ

クラゲ
ゲラ ゲ ラゲ
クラ ゲラゲ
ラゲ

彼女が哄笑する

川の水位は僕の喉元に達した
喘いだ口に泥水が入る

水中で皮膚を撫でていく
濁流の中の
柔らかなクラゲたち

タナトスのふりをしたヘナトスが
チェット・ベイカーみたいに
タバコを吸っていた

若しくはコクトーのようにモノクロに
シャボンに包まれる
パチンと弾けたそれは
よく見ればクラゲだ

クラゲたち
水中に飽和して
ひとひら
中空を浮遊して空に還る


コクトーのシャボン玉になって
永遠を映して死ぬ

ヘナトスはタバコをくゆらしている

無意味な言葉ばかり吐き出すからだよ

その通り
川は無意味な言葉で氾濫していた
僕は僕自身の無意味によって
溺れようとしている
さようなら20世紀
さようならパリ

とても面白い夢を見たので、起きてから慌ててメモを取った。メモを取り終えて時計を見ると未だ夜中であったので改めて寝た。
朝になってメモを弄って夢日記にまとめた。
一日の仕事を終えて夜になり、朝書いた夢日記を読み返した。
夢日記という謎文。
無意識の世界からやってきた天啓。
僕ではない僕との出会い?
ハローニューワールド?
一頻り読み終えて僕は目を閉じた。

これ、面白いか…?

何ら主張がある訳でも、僕の人生が載った訳でもない全きナンセンス!
況してや僕の発想ですらない!
夢、単なる夢!

日記の中の僕が言う。
ねえ君 無意味な詩ばかり作るのは止めなよ、と。
分かってるさ、と僕は答える。
分かってるよ。
そして
オマエ(無意味な詩)にそんな事、言われたかないぜ。

そして本作はお蔵入りになったのです。
読み返したら意外と面白かったので
没ネタ祭で供養します。


(初稿 平成30年9月3日)

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