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私花集「海月くらげ」

一つのテーマに絞ってnoteユーザー様の新旧記事をアンソロジーにまとめる「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」企画。9月のテーマは「海月くらげ」でした。

記事の掲載にご了承下さった皆様、ありがとうございました。
今月も自信を以っておすすめする珠玉の作品が集まりました。是非ご覧下さい。
秋の夜長の眠れぬ夜に、いっそ眠らずに海月の幻想に心を漂わせてみては如何でしょうか?

目次
01 サウンド 「ギヤマンクラゲの説明」(でめきん)
02 歳時記とイラスト 「暦ごと葉月 立秋/まめ知識 くらげ」(石川ともこ)
03 科学エッセイ「ミズクラゲと暮らす」(SAYA)
04 コミック「午前四時の首」(寺田亜太朗)
05 イラスト「0625 2」(てくだてくてく)
06 詩 「くらげ」(あおゐさつき)
07 女子大生の日記「ウズベキスタンでクラゲになりたい」(浅葱)
08 短編小説「海月の街」(クマキヒロシ)
09 短編小説「半月とクラゲ男」(村崎懐炉)
10 抽象画「今夏の自画像」(白樺ムク)
11 日記文学「8月21日透明人間」(稲荷直史)
12 掌編小説「9月の空はくらげ色」(くにん)
13 アコースティック「ものけいん」(わたむし)
14 1P漫画「海上散歩」(くんぷう)

本編はこちらです。

https://note.mu/murasaki_kairo/m/mc93961125323

【作品解説】
01
サウンド「ギヤマンクラゲの説明」(でめきん)
図鑑の一項目、家電製品の説明書、パンの作り方。それを読む人、聴く人のシンパシーがあればなんでも上質の詩になるものと、私は思います。本作品はサウンドクリエイターのでめきんさんが、クラゲ図鑑の解説を読むことに音楽を重ねたものですが、これ程素晴らしい詩が他にあるでしょうか。自然の神秘、美しさに溢れています。

02
歳時記とイラスト「暦ごと 葉月 『立秋』」
(石川ともこ)
イラストレーターである石川ともこさんの人気記事です。石川ともこさんは「noteのおすすめ」でもよく拝見致します。
歳時記とは古人が日本の季節を読み解いた辞典です。新しい言葉の誕生とともに歳時記も日々更新されます。
さて、本記事の中のクラゲのイラスト。
水槽の中に大きなクラゲたちが遊泳しています。
なんと気持ちの良い光景でしょうか。それを見る来館客も楽しげです。
しかしよく見ると沢山の来館客たちは唯の影です。クラゲを見るために影たちが集まってきたんですね。人外の者も混ざっています。不思議な絵です。しかし、楽しそうです。

03
科学エッセイ「ミズクラゲと暮らす」(SAYA)
プロフィールを読むとSAYAさんは東京でカフェを営んでおられる。また「さとうかよこ」さんの御名義で鉱物に纏わるお洒落な本も多数出していらっしゃるようです。そのSAYAさんが飼っているミズクラゲの飼い方を解説した記事です。
クラゲの生態について飼育している方ならではの細かなアセスメントがとても勉強になります。豊富な写真も良いですね。読み応えのある内容です。

04
コミック「午前四時の首」寺田亜太朗
午前四時になると窓の外から訪ねてくる同級生の首。不思議な設定ですが涙なしでは読めません。全体に染み透る「太宰感」もまた癖になります。
今回のアンソロジーのテーマはクラゲな訳ですが、沢山の幻想的な作品を読むうちにクラゲというものは空中を浮遊しているような錯覚に陥りました。
そこに同じく空中を浮遊する生首の作品がありましたので、私の中では「幻想のクラゲ≒飛頭蛮」という図式が成り立っているのですが、皆様ご理解頂けますでしょうか?

05
イラスト「0625 2」(てくだてくてく)
てくだてくてくさんは、幻想的な漫画やイラストの他にレシピ漫画などを掲載しておられます。どの作品もとても面白いです。
本作品は「涙から海月が生まれたところ」と私は解釈しました。寺山修司の言葉に「涙は人間が作ることのできるいちばん小さな海です」とあります。(その出典はアンデルセンとのこと)
海であるなら海月も幾ばくかおりましょう。
「0625 2」には対を成すイラストがあります。やはり海月の絵です。どちらも春画のように艷やかです。

06
詩「くらげ」(あおゐさつき)
あおゐさつきさんは詩や写真などを投稿しておられます。読者様の多い人気ユーザーです。
本作は中々迫力があります。引用すると「貴方を愛してしまったのなら、あとはもう極端な話、ひたすら愛し続けるか、無心で殺し続けるか、その二択以外に私には取るべき手段は残されていないと思う。」このような直情的な物言いが私は好きです。
物事を突き詰めた時の最終的な二択。どちらにするべきなのか、決められぬ葛藤が当に詩であり、ドラマツルギーであると。迫力のあるドラマチックな詩です。

07
女子大生の日記「ウズベキスタンでクラゲになりたい」(浅葱)
新卒学生の就職活動という人生に一度のイニシエーションに直面している浅葱さんのコラムです。おっさんである私が当時を振り返って思うことは就職活動という盛り上がりはメディアの作り出した熱狂的な虚構であったように思われます。
「就活」のためのスーツ、指南書、コミュケーション教室。詰まる所、さもそれらが必要であるように思わせて商材を売るための幻想装置であるわけです。人間に優劣を付けようという究極は、単なる人事担当者の「好き嫌い」に集約される訳で、「好かれるか、嫌われるか」という勝負に面接指南書のなんと無用なことか。
浅葱さんのその後はどうなったんでしょうか。就活を続けているのか、内定を受けたのか、ウズベキスタンでクラゲになったのか気になるところです。例え見ず知らずの方であったとしてもリアルな人生、リアルな分岐点、これに勝るドラマがあるでしょうか。

08
短編小説「海月の街」クマキヒロシ
最近ご家族さんとの台北旅行を記事にされたクマキさんですが、アジアンな短編小説を書かれました。
主人公は「クラゲ」であるところの「私」です。
しかし、「クラゲ」が何なのか分からない。
どのような存在で、どのような体構造をして、どのように発生するのか。謎です。
人種の坩堝となったアジアの一都市。オープンカフェでキスするアンドロイドたち。
架空の街「チェングシー」を舞台にした壮大な物語の幕開けです。
このような世界観は好きです。現状意味が捉えきれない魔法言語に溢れています。神秘的です。

09
短編小説「半月とクラゲ男」村崎懐炉
拙作です。下らぬ雑文です。素晴らしい作品を並べた片隅にお邪魔しました。お目汚しを失礼します。

10
抽象画「今夏の自画像」白樺ムク
白樺ムクさんの作品の中に「浮遊」というクラゲを題材にした作品があります。美しい青色の中に浮遊する真白き生物。美しい作品です。
クラゲに人気が集まる理由の一つにこの色の対比があるように思われます。透徹する青と白。純粋な美しさです。
本作品は「今夏の自画像」というタイトルが付きました。女性らしい華やかな色彩です。きっとこの夏は良いことがあったのでしょう。そして「私」は白くて溶解したような何かであって、感情も思想も見えません。この対比が面白く本アンソロジーに掲載をお願い致しました。
私どもにとってクラゲとは何か。私達は「クラゲ」が何者であるか推理を重ねます。これはクラゲの正体を垣間見せる作品であると思います。

11
日記文学「8月21日 透明人間」(稲荷直史)
私のこの夏最大の発見が稲荷直史さんでした。
作品を読んでもプロフィールを読んでも珍妙な稲荷さん。何者であるのかと、思わずggrました。
その結果がこちら(https://youtu.be/82VFIl4TSSc)です。インディーズロックが好きな方は聴いてみて下さい。
noteをやっていると時折、私のような凡庸の徒とは全く異質な天才性を発見しますが、稲荷さんも所謂天才性の方です。
本記事は稲荷直史さんがこの8月中に書き続けた一連の日記の一小節です。
日記の完成度の高さもまた素晴らしいです。
私達はクラゲになりたいと願う一方で、ほぼ同軸の言葉である透明人間に対して恐怖を覚えているように思えます。
透明人間になりたい。しかし、それが不可逆であることを知っています。

12
掌編小説「9月の空はくらげ色」(くにん)
(仮称)ネムキ同人会のくにんさんの作品。今回も作品のご提供ありがとうございました。
くらげが降ることの描写について、ニュースキャスターが自らの運命を予言するという導入が面白いですね。くらげが降る現象が実に自然に展開されました。そして、くらげが降ること。美しいですね。月の光を孕んでクラゲは発光とともに消えます。
私はこんな日に死にたいです。
できれば路上で。
きっとくらげが降ってこの街では誰かと誰かによる素敵なドラマが始まるのでしょう。


13
音楽「ものけいん」(わたむし)
前回本アンソロジーでも取り上げさせて頂きましたわたむしさんです。わたむしさんの発見は大きな反響を呼んでいたように思われます。
その後も詩やイラスト、洒落の効いた短編を数多く発表しております。
作品名「ものけいん」は古典的SF小説「透明人間」に登場する透明化薬のこと。
歌詞中にも透明少女が登場します。
クラゲになりたい、透明人間になりたい私達は「ものけいん」を飲みたい私達でもあります。
透明となり浮遊することの悲しみに身を沈めたい。

14
1ページ漫画「海上散歩」くんぷう
本アンソロジーの最後はくんぷうさんの1ページコミックです。
晴々とした雨上がり。
女性が海上を悠々と歩きます。
本アンソロジーは私達がクラゲになりたいという幻想に遊びつつ、現実の軋轢を見つめ直すものであったように思います。
クラゲ願望と透明人間の悲哀。その狭間に私達は暮らしています。
眠れぬ夜も間もなく明けて朝が来ます。
葛藤を抱えながらもそれを整理し、やはり私達は歩き出すのです。

以上14編のアンソロジーです。
今回、見つけることができなかった素晴らしい作品がnoteにはまだまだ沢山あります。夏はまた来ます。願わくば来年またお会いしましょう。

本編はこちら
眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー「海月くらげ」

(仮称)ネムキ同人会は雑誌「ネムキ(眠れぬ夜の奇妙な話)」に敬意を表して「眠れぬ夜のアンソロジー」をまとめています。
次回のテーマは「ダンス」になると思います。作品を提供して頂ける方を募っております。

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