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没ネタ祭「現代詩 鎌倉サンセット」

ペラペラのサーファーが由比ヶ浜に
浮いたりひっくり返ったり
僕は目が悪いのでそれらが棒人間に見える

渋滞に巻き込まれて
二時間余
僕は
生きることに辟易した
失望した

そんな苛立ちを
春の蜜柑にぶつけている

アーアー
本日は建国記念日なり
かつて神代の神武天皇が即位した日なり
これ紀元節なり
日本が滅びた日に慶事を喪くし
日本が再た主権国家の領分を得て
勝ち得た国民の祝日なり
建国を偲び
建国を偲び
我々は建国を偲び

擦れ違った街宣右翼の
若者が演説をしていた

ねえ君
と助手席に僕は話しかける

国体護持の話より
僕の話を聞けよ
良い蜜柑と悪い蜜柑の
違いは皮の厚さだ
良い蜜柑ほど
皮が薄いものだよ
だから
蜜柑を持ったときに
果実の柔らかさが
しんなりと指の腹に吸い付くような

年寄りの弛んだ皮膚のような
そんな蜜柑が
官能的に美味いんだ

なあ蜜柑の皮を剥いてくれよ
僕はハンドルを握らなきゃあ
ならないんだぜ
僕はハンドルを握ってるんだ

その傍らを
ジョギングする男女

彼らの宗教は健康であることそのもので
彼らは健康のためなら何でもするぜ
どいつもこいつも
人生を謳歌してやがる

祝日を
謳歌してやがる

ところが僕たちときたらーー

渋滞 渋滞 渋滞
渋滞    渋滞
渋滞 渋滞 渋滞

渋滞を擦り抜けるオートバイの右側は
サーフ板を積むよう改造されている

そうとも
ビーチはサーファーのもの
公道は街宣右翼のもの
歩道はジョガーのもの
鎌倉は
太陽は

波間の棒人間がまたひっくり返った
風が強く波が高い

東風吹かば
東風吹かば

カマクラ
サンセット
トラフィックジャム
蜜柑

僕たち

(現代詩「鎌倉サンセット」村崎カイロ)

#現代詩 #小説 #詩人 #鎌倉

(未発表作品)
この詩は建国記念日に鎌倉にお詣りに行った時のお話を元にしております。この時の様子は拙の「俳句日記 かはうそ祭」にまとめています。
休日に鎌倉に行ったら渋滞に巻き込まれて(更に道を間違えて)一日終わった、という苛立ち、それから春が間近となった由比ヶ浜の美しい煌めきを詠んだ詩です。
建国記念日に由比ヶ浜を走る街宣右翼は恐らく一台(一団体)のみで、固有の団体を特定する内容は控えた方が良いのかな、との配慮から投稿を見合わせていたものです。数年が経ちましたので、もう大丈夫でしょう。
タイトル画像にある眼鏡は、noteを始めた初期の頃に設定していたもの。
ウディ・アレンの眼鏡(をイラスト化したものをネットで拾ったもの)です。目を細めて、眼鏡の周囲に髪型とか鼻とかイメージすると、ウディ・アレンの顔が思い浮かぶかもしれません。

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と、ここまでが実は前回の「没ネタ祭(2018年9月)」に投稿しようとして書かれたあとがき。ここまで書いて結局、発表せずという「未発表中の未発表」作品。このような企画でも発表されないとか。発表されないことに禍々しい因縁を感じます・・・。
が、何も考えず勢いに任せて発表します!
南無南無、御供養!ドロン!
建国記念日に鎌倉を訪れて由比ガ浜の夕日を見た際には、是非、拙詩を思い出して下さいませ(限定多過ぎ・笑)

(現代詩「鎌倉サンセット」)ムラサキ