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村崎懐炉短編小説集

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短編小説をまとめました。僕は不思議な話や甘い恋の話が好きなんです。
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2020年10月の記事一覧

短編小説「いとやはらかに温泉まんぢうがありまして」

さよふけて。

川辺の温泉宿は夜もすがら滔々と川の流れる音がする。
そうした瀬音を聞き乍ら文机に座って、僕は小説を書いている。
書いているつもりが、先程から一行たりとて進まない。

「猫又温泉」
書いたのはタイトルと思しきたった一行。

なおなお、と表で旅館に飼われた猫が鳴く。
猫をあやして女中が餌を呉れる声がする。

ああ、女中の膝枕で眠りたい。太腿に臥して猫の如く喉を鳴らして甘えたい。
徳利を

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