見出し画像

薄ぼけたもやの中から


単位をひとつ落とした。
笑って「次はがんばるね」と言った。

単位を半分落とした。
笑われて「大丈夫」と冗談交じりに答えた。

教室に入れなくなった。
ドアの手前で止まる足。震える体。溢れる涙。

家を出られなくなった。
自分はなんて怠惰で愚かなのかと責めた。


選択をした。
ここで終わることにした。

成し遂げられなかった。


次の選択をした。
せめて病気のせいであれ。

荒れた六畳間
スマホの光だけが
検索窓を照らした。

重たい体を白衣の前へ運んだ。


8年が経った。
生きている。

あのとき、自分を捨てていたら。
あのとき、薬をもっと飲んでいたら。
あのとき、もう一歩踏み出していたら。

しなかった選択が、私を生かす。


苦しい。苦しいよ、生かされるのは。
それでも、隣にある笑顔を
行くなと怒(いか)り涙する皺を
放っておけない弱さが、私を強くするんだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?