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砂を噛む

今頃は何をしているんだろう。
その暮しぶりを知り尽くしていると、
この日のこの時間には、
何をしているのかが、
手に取る様に想像できてしまう。
けど、
それは僕と付き合っていた頃の
僕の為の君のだったんだよね。 

脱け殻になったあのリビングで、
向かい合う相手のいなくなった
テーブルには、
砂糖もミルクも準備しなくていい
一杯のコーヒーが、
置かれているのかな。



朝日が君の方にだけ射し込む季節には
朝日の動きに合わせて、
時間毎にドレープの角度を
何度も調節してたよね。 

明るい日射しを真正面から受ける君は
とても眩しく輝いて
僕はその日射しに感謝してたんだ。
だって朝日を受けた素顔の君の肌は
綺麗だったから。


私には、貴方がどうしても
必要だから、大切にしたいから
こうして一緒に過ごしているのに
どうして貴方は
それを分かってくれないの? 

離れているのが不自然に思うのね。
本当は、
いつも何処かが触れ合っていたいけど
私だけのあなたじゃないのは
仕方ない事だと諦めていたよ。



だけど、それは、
君との付き合いが大切だったから
君を守りたかったから、
僕は君の為に頑張っていたんだよ。 

大切な人との
穏やかで幸せな時間を
二人で守って行きたかった。



ついさっきまで長い髪を絡ませて
その香りに包まれ眠っていた僕。
隣から聞こえる小さな寝息と
君の体温が切ないくらいに幸せだった。


君に溢れていた生活は、
君だけの僕だったけど
僕の仕事には、
その付き合いを続けて行く為に
どうしても避けられない現実が
あったんだ。
それを拗らせずに、
じょうずに働かなければならない
必要性があったんだ。 

疎かには出来ない部分もあって
君には一杯淋しい思いをさせたし、
迷惑も掛けたよね。 

君の為の
二人の為の僕の頑張りは、
いつしか君との時間を隔て始めて、
大切な君に会えない時間を
強いてしまった。 

小さな不満の積み重ねで、
大きな不安に潰されて行った。 

そんな事にも気付かずに、
僕は僕のやるべき事だと
労る気持ちも忘れてた。


沢山心に溜め込んで、
積もりに積もったやるせなさを
吐き出せずに飲み込んだ。
君の痛みにも甘え過ぎていたんだ。



こんな、求め合ったままのお別れは
あってはならないんだと、
砂を噛む思いに苦しんでいる。

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