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有川浩の「阪急電車」について

 有川浩の「阪急電車」を読んだ。有川浩には中学生の頃にはまっており懐かしくなって図書館の本棚で手に取ってしまった。当時の私には外れのない安心して読める作家であった。長い時を経て、久し振りに読んでみたがやはり面白かった。読みやすくて分かりやすい。あまり本を読まない人でも楽しめると思う。
 この作品は阪急の今津線という電車内を舞台に繰り広げられる様々な登場人物のドラマをオムニバス形式で書いた小説だ。若者の微笑ましい恋愛模様や、周囲の人間関係に嫌気が差している人が勇気を踏み出すまでの様子などが見事に描かれている。
 小説の前半で登場した人物の半年後が、後半で後日談として語られておりそこも良い。意外と、続きが気になるところで終わってしまう小説は多い。そんな中、読者が満足できるところまでしっかり書き切ってくれるサービス精神の良さが有川浩という作家の魅力の一つだと思う。
 とはいえ、久し振りに読んでみると、最初に読んだ頃の感動はなかった。有川作品のようなエンタメ小説は初読のときが面白さのピークで、何度も読み返すほどの深みはないというのが私個人としての意見である。これはもちろん作者の課題や改善点ではない。ただ、自分が有川浩作品を最大限に楽しめる期間が終わってしまっただけである。

 

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