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朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」について

 今回紹介するのは朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」という小説である。
 私は中学生の頃に初めて読んで以来、自慢ではないが十回近く読んでいる。
 内容を簡単に説明する。県立高校のバレー部のキャプテンである桐島が部活をやめる。というところから物語が始まる。それから、桐島ではない同じ高校の生徒の日常が描かれる。以上。タイトルの桐島という人物は回想には出てくるが、現在の時間軸では出てこない。
 だから、最初に読んだとき、肩すかしを喰らったような感覚に陥ったのを覚えている。いつ桐島が登場するのだろうと思いながら読み進めていると、小説がいつの間にか終わってしまうのだ。当時の私と同じように朝井リョウに化かされた読者は多いだろう。
 「桐島、部活やめるってよ」は全部で六章に分かれている。章のタイトルは全て人物の名前で、順に並べると、菊池宏樹、小泉風助、沢島亜矢、前田涼也、宮部美果、菊池宏樹となる。章ごとにこの人物の視点で小説は進んでいく。
 菊池宏樹は野球部の幽霊部員である。竜汰や友弘と共に桐島とつるんでいる。桐島がバレー部に所属していた頃は、バレー部が終わるのを竜汰と友弘と一緒にバスケットボールをして待っていた。
 小泉風助はバレー部である。桐島と同じポジションで、桐島がやめたことでレギュラーになる。
 沢島亜矢はブラスバンド部の部長である。桐島の友人である竜汰に片想いをしている。
 前田涼也は映画部に所属している。部で撮った映画がコンクールで入賞する。中学時代、仲が良かった東原かすみと疎遠になっている。
 宮部美果はソフトボール部に所属している。バレー部の孝介と付き合っている。
 菊池宏樹と小泉風助は桐島と親交があったが、残りの三人に関しては桐島との関わりはほとんどない。そのことに最初は疑問に思っていた。しかし、何回も読んでいくうちに桐島がバレー部をやめたことでその三人がバタフライエフェクト的な影響を受けていることに気付いた。それによって、桐島が登場しないまま小説が終わることに納得できるようになった。
 つまり、「桐島、部活やめるってよ」は桐島が部活をやめたことで起きる他の人物への影響を元に、桐島という人物を描く試みをしているのだ。
 久し振りに今回読んでみたが、上記のような小難しい理屈を抜きにして語ると、何回読んでも良い。文章の透明感とか、スクールカーストによって階級が決まっていることへの閉塞感とか、うまく表現されていて自分の高校時代と重ね合わせて共感してしまう。
 すごく完成度の高い青春小説なので、是非とも読んでもらいたい。桐島がバレー部をやめたことによって、各登場人物たちにどのような変化が起きているのかに注目して読むと混乱せずに読めると思う。

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