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佐藤成実はいつも、僕の知らないキャラクターの姿を観せてきてくれた。ありがとう。

 佐藤成実に与えた役は、気が付けば彼女だけのものになっている。

 佐藤成実。なるみん。アクタボンのマスコット。現役理系女院性。ディズニーのショーやパレードに憧れ、自らも表現の舞台に飛び込んだ女優。

 現役の大学院生というだけあって、なるみんはすごく頭が良い。ホンを読み込む理解度はいわずもがな、彼女の演技にはひとつひとつ明確でちゃんとした"意思"が宿っている。

「なんでその動きをしたんですか?」「なぜその表情なんですか?」「どうしてそこまで歩いたんですか?」

 こういう疑問を投げかけたとき、佐藤成実は決まって、自分の言葉で理由を返してくれる。

 建設的な議論の末に、キャラクターを、物語を作っていく。その過程で生まれるのは、佐藤成実だけの、なるみんにしかできない表現だ。

第二回本公演『七つの退屈』
キャラクターピックアップ公演『未知標奇跡 編』
未知標 奇跡(みちしるべ きせき)

 彼女は僕の創り出したキャラクターを、自由にアレンジして持ってきてくれる。

 わかりやすいところでいうと奇跡ちゃんは、脚本執筆時に僕の描いていた奇跡ちゃんのイメージとなるみんが実際に演じた奇跡ちゃんは、実は全然違う。

〈幸せそう。無垢で明るく天真爛漫。活発。〉

 人物としての基礎基盤はもちろんちゃんと共有した上で、僕の描いていたイメージと違うものを出してくる。そしてそれが、「いいな」と思えるものである。稽古のたびに、自分で考えてきたなるみん節のキャラクターの見せ方、立ち回りを試してくれる。

 それによって"完成"したのが、未知標奇跡だ。

 与えられたキャラクターを自分の中に落とし込んで、そこにそのキャラクター独自の動きを付け加えていく。それを楽しそうに演る。

 そうしてなるみんと一緒に表現を作り上げていくのは、とてもとても、実のある時間だった。


第三回本公演『三者六様の虚偽』
汐川 成未(しおかわ なるみ)

 なるみんは、3月にアクタボンを退団する。
 つまり、この『三者六様の虚偽』がなるみんがアクタボンとして福岡で立つ最後の舞台となる。

 汐川成未は、佐藤成実の為に生まれたキャラクターだ。旅立ちを祝う、手向の役。

 彼女との思い出はたくさんあるが、なかでも面白いのは──前述した彼女の役者としての特徴・強みである『自己演出』は出会った当初、佐藤成実がもっとも苦手としていた部分であった、ということだ。

 佐藤成実の集大成、生の劇場で、目に焼き付けてほしい。

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