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七つの前屈ep型固芽道利「理論順守の最適解?~揺らせ、脳~」⑤

5.



「あなたってさ。たぶんわたしのこと、そんなに好きじゃないよね」



 正解など、この世に存在しない。



 の、かもしれない。



「わかるよ。わたしはあなたみたいに頭はよくないけど……あなたのことは、あなた以上にわかるもん」



 大概の若者が思春期に陥るそんな思考に。



 孤高の天才・型固芽道利も珍しく、学生時代、陥っていた。



 陥って、溺れていた。



「あなたが好きなのは、あなたを好きでいてくれて、あなたの傍にいてくれる人──でしょ? わたしじゃない」



 家族からの愛情を受けることができず余っていた心の隙間を、穴埋めするように──穿った壁に泥で蓋をするように、破れた船底から海水が溢れ出してくるように──血も繋がらない相手に求めた愛は、当然のことに、ただただ歪で。



 歪に歪んで、罅割れていて。薄くて軽くて、軽率で。



 真実じゃなくて。



「わたしはあなたのこと、まだ好きだけど……まだまだ好きだけど。どんどん好きになるけど! でも、その分、もっともっと、つらくなる」



 道利にはわかっていた。ぜんぶ。すべて理解していた。



 だから。



「だから、お別れしよう。わたしたち」



 どうするべきかは、わかっていた。それが容易く実行できることも、そうすれば、まるで何事もなかったかのように、ふたりの明日は続いていくことも。





 でも彼は、聡明だから。型固芽道利だから。





 言えなかった。





「……ああ、わかった。そうしてくれ」





『そんなことない、俺はお前だけが好きだ、信じてくれ』



 ──なんて、言えるわけがなかった。



 だって、この世界は平等なのだから。





「…………うん。そうする。いままで、ごめんね」



 正解が分かり切った模範生に、正しくない答えは出せない。



 いつでも満点の解答用紙に、縛られている。



「道利……! おまえ、約束したんじゃないのかよ、あの子を幸せにするって──! もう、いいや。……やっぱお前、信頼はできねえわ」



 後輩も、家族も、恋人も、友達も。他人も。



 彼の物語に出てくる登場人物は全員、主人公との関係性に、優劣はない。

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