音楽理論「重箱の隅」第19話「マイナーオーグメントコードって…ある!?」
こんにちは。ベーシストの村井俊夫です。
音楽理論の端っこのほうにある、ふとした事柄、でも割と大事なこと…重箱の隅を楊枝でつつくような記事を書き連ねています。
よろしくお願いいたします。
今日のお題は
「マイナーオーグメントコードって…ある!?」
コードネームの「aug」は「5thを半音上げる(増5度にする)」ものです。例えば「Caug」はこのようになります。
ではマイナーコードではどうでしょう。単に「5thを上げる」とすればこのようになります。
果たして「マイナーオーグメント」というコードはあるのでしょうか…。
いきなりの結論です。
「マイナーオーグメントコードは『ある』といえばあるし、『ない』といえばない」
という特殊なコードです。どういうことかと言いますと…。
マイナーオーグメントというコード表記、たしかに見かけることはありますが、その使われかたはかなり限定的です。次の例のみ、と言っても過言ではありません。
スパイ映画でおなじみの、クリシェを使ったこのコード進行、サスペンスでは定番です。5thの半音移動を明確にするために「Amaug」の表記が適しています。「マイナーオーグメントは『ある』」と言えます。
では「マイナーオーグメントは『ない』」という言い分を考えてみましょう。理由はふたつあります。
①クリシェ以外の使い方は、別なコードクオリティー(立場)になってしまうため。
②マイナーオーグメントのサウンドを表現するアベイラブルノートスケールがないため。
①について。
「普通の」コード進行の中でマイナーオーグメントを使ってみると、そのサウンドは明らかに別のコードクオリティーとして響きます。
「Amの変化形」としてのサウンドよりも「F on A」のサウンドが前面に現れます。ちなみにメジャーコードのaugの場合には「明らかな転回形」にすり替わることはないので、このような事態にはなりません。
②について。
マイナーオーグメントのアベイラブルノートスケールを考えるとすれば、「m3rdとaug5thを持ち、かつP5thは持たないスケール」ということになりますが、基本的にはそれを満たすスケールはありません。強いていえば「Altered Dominant 7th Scale」や「Locrian Scale」などはそれらを満たしていますが、オルタードスケールはM3rdをコードトーンとして、豊富なオルタードテンションがドミナント機能を存分に発揮する立場なのでフィットしませんし、ロクリアンスケールはトニックマイナーのサウンドにはならないので、こちらもフィットしません。
『ある』のところで挙げたクリシェでの「Amaug」では、augにあたる「ファ」は「Amのミ」と「Am6のファ#」を結ぶ半音経過、つまりトニックマイナーが続いている状態なので、「ファを持つトニックマイナー系のスケール」つまり「Aeorian Scale(ナチュラルマイナースケール)」が適していますが、エオリアンでのコードサウンドの主体は「Root, m3rd, P5th」なので、スケールサウンドとしてオーグメントを表現するものではありません。ジャズのスタンダードナンバー「Cry Me A River」の冒頭ではクリシェが使われていますが、「Cmaug」のところのメロディーはP5th(ソ)が使われています。やはりaugの「ソ#」はバックグラウンドハーモニー内での半音経過と解釈しています。
コードとも言えるし、アレンジ上の半音経過とも言える「マイナーオーグメント」、いずれにしてもサスペンスドラマフリークには欠かせない魅力的なサウンドです。
おあとがよろしいようで。
お読み頂き、ありがとうございます。
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