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音楽理論「重箱の隅」第3話「ペンタトニック七変化」

こんにちは。ベーシストの村井俊夫です。

音楽理論の端っこのほうにある、ふとした事柄、でも割と大事なこと…重箱の隅を楊枝でつつくような記事を書き連ねています。

よろしくお願いいたします。

今日のお題は…

「ペンタトニック七変化」

身近でありながら、なかなかの奥深さを持つペンタトニックスケール。

ロックではストレートで骨太な顔を持ちながら、ジャズではアウト手法としての含みを持つ顔立ち、そして演歌では大輪の花のような笑顔…さながら七変化ですね。

「ヨナヌキ音階」とも呼ばれるペンタトニック。メジャースケールから4番目と7番目を抜いている形です。マイナーペンタトニックは主音を置き換えているだけで、同じ内訳になるので「ヨナヌキ」ではなく「2・6ヌキ」です。

ペンタトニック

という説明が一般的ではありますが、そもそもペンタトニックの発祥は「メジャースケールから音を抜いた」わけではなく、スコットランド民謡や中国の音楽で使われていた「それ自体が音階」でした。機能和声的な「コーダル」な素材ではなく、旋律主体の「モーダル」なものです。それが、西洋音楽においても非常に興味深い材料になったので、西洋音楽の中では「メジャースケールから音を抜いた音階」として説明されています。

西洋音楽の中で「面白い素材」になり得た要因は「半音階を持たない」ことです。半音階を持たない、とは「解決欲求を持つ音がない」ということです。Cメジャースケールでいえば「ファ」と「シ」は「ファ→ミ」「シ→ド」という解決欲求を持ちますが、ペンタトニックにはこのふたつの音がありません。と同時に、ファとシがないので、主和音へ向かうトライトーン(Ⅴ7の3度と7度)もありません。西洋音楽の根幹であるドミナント機能と無縁であることこそが、西洋音楽に新鮮な彩りを添えることになりました。

結果、この「解決欲求がない」ことが、音楽的にどのような素材になったか、というと…

①「和声音・非和声音」という発想に縛られない。
西洋音楽の旋律は「和声音・非和声音」の区分で作られますが、機能和声からの縛りが薄いペンタトニックは、それらに当てはまらない跳躍も違和感なく聴こえます。

②ランダムに並べても「メロディーっぽく」聴こえる。
解決欲求、つまり「この音はこう進むべき」という縛りがないので、ペンタトニック内であれば、何の音が何の音に進んでも、それなりに格好が付きます。

③「素朴」「明解」「強さ」など、ストレートなイメージ演出ができる。
「第4音(ファ)と第7音(シ)」は半音階特有の湿度や切迫感を演出するパーツになり得ますが、それらがないので、ペンタトニックの旋律は、裏表のない素朴さや力強さ、熱量などを演出することができます。

などなど。

ちなみに、ロックで「ここのギターソロはペンタ一発!」というのは、上記のような特徴から「ペンタトニックは和声進行と対等の立場として平行に存在し得る」という特性があるからです。このような特性を「ホリゾンタルスケール」といいます。それに対して、コードごとにフィットする音階を考える「アベイラブルノートスケール」の分類は「バーティカルスケール」といいます。水平(ホリゾンタル)に見るか垂直(バーティカル)に見るか、ということです。
ジャズの場合には、この独立性を利用して、基になるキーとの音の共通度合いや不協和度によって、近いアウト、遠いアウト、の塩梅をします。

「ある時は〇〇、ある時は△△、しかしてその実態は…七つの顔を持つ男、その名は多羅尾伴内!」てなとこでしょうか…ペンタトニックスケール。

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おあとがよろしいようで。

お読み頂き、ありがとうございます。




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