見出し画像

ティルドラス公は本日も多忙⑤ 嵐の年、国滅ぶ時(0)

第〇章 これまでのあらすじ

 群雄割拠の中で戦乱が続く大陸・ミスカムシル。一介の兵士から身を起こし一代で覇者となった開祖・キッツ=ハッシバル伯爵のもと一時的に天下の半ばを支配していたハッシバル伯国も、キッツ伯爵の息子・フィドル伯爵の失政により、現在は辺境の一小国へと没落している。そのフィドル伯爵の長男であるティルドラス=ハッシバルは、父の不興を買い、国都・ネビルクトンを離れたキクラスザールの街で謹慎させられていた。
 フィドル伯爵の急死を受け、伯爵の次男であるティルドラスの同母弟・ダンは、母のメルリアン、秘書官のシー=オーエンらと共に父の遺言を偽造して伯爵を称し、キクラスザールのティルドラスに捕り手を差し向ける。末弟・ナガンの急報で脱出したティルドラスは、ナガン、秘書官のソー=チノー、そして三人の捕り手の兵士たちと共に、住民が全て石と化した魔の森・シュマイナスタイへと迷い込み、そこで腰から下が石となった謎の少女・アーネイラと彼女にかしずく妖婆・カーヤに出会って彼女たちの岩屋にかくまわれることになった。
 時を同じくして、伯国の要衝であるティルムレチスの城に隣国・ミストバル侯国が侵攻。危機に陥るティルムレチスを放置して、ダンは近隣の小国への侵攻準備に血道を上げる。彼を諫めるオーエンだったが、既に権力の魔力に取り憑かれたダンは耳を貸さない。一方、アーネイラの岩屋で呑気な日々を過ごしていたティルドラスは、ある日出向いた市場で偶然のことから所在を知られてしまい、捕り手の兵士たちの略奪暴行から村人を守るため、自ら進んで敵に捕らわれようとする。しかし姿を現した彼は悪政に苦しむ民衆や兵士たちによって、自身の意志とは無関係に一方の旗頭に祭り上げられてしまう。野武士の頭で逃亡剣闘士のセルヴ=サクトルバス、ダンに反旗を翻した兵士たちの指導者であるリーボック=リーらの活躍によって国都に迫るティルドラスの前に、ダンの陣営はあっけなく崩壊する。万策尽き、ダンと共に戦って死ぬことを決意するオーエンだが、仇敵・チノーの妹であるセルキーナと、学問の師であるキコックの言葉に死ぬことの虚しさを悟り、ダンと共に国外へと亡命する道を選ぶ。
 ティルドラスは伯爵として国都に戻り、ティルムレチスの危機も援軍の到着により救われた。そんな中チノーは、妹のセルキーナがオーエンと共に国を去ったことを嘆きながら、天下の名目上の主であるティンガル王家への上奏文に「平穏」「事もなし」の言葉を書き綴るのだった。(第一話:ハッシバル伯国は事もなし)

ティルドラス公は本日も多忙① ハッシバル伯国は事もなし|MURA Tadasi (村 正)|note

 伯爵の位に就いたティルドラスだが、国政は叔母である摂政のサフィアに握られ、彼自身は何の権限も持たない飾り物の地位に置かれただけだった。そのティルドラスの反対を押し切ってミストバル候国への出兵を行うサフィア。しかしミストバル軍の女性指揮官・ペネラ=ノイの前に惨敗し、兵力の大半を失う。これによってハッシバル家が弱体化したと考えた隣国・バグハート子国の主・メイル=バグハート子爵は諫大夫かんたいふであるペジュン=アンティルの諫めを聞き入れずハッシバル領への侵攻を企てるものの、国境の街・トパーナの守備隊に加わっていたリーボックに敗れ、逆に自国の領内へと侵攻されることになった。一方、ハッシバル軍の内部でも占領地での略奪の可否を巡って対立が起き、それを知ったティルドラスは、シュマイナスタイのアーネイラの力を借りて自ら侵攻軍に乗り込み指揮権を握る。バグハート家の援軍を撃破して子爵家の国都・マクドゥマルに迫るハッシバル軍に対し、メイル子爵は宮廷を逃れ手近の城塞に立て籠もるものの、兵糧の不足を補おうと略奪同然の徴発を繰り返したことから民心を失い、蜂起した民衆に殺されてバグハート家は滅亡する。(第二話:新伯爵は前途多難)

ティルドラス公は本日も多忙② 新伯爵は前途多難|MURA Tadasi (村 正)|note

 併合した旧バグハート領に留まり、自身の考えに基づく政策を実施しようとするティルドラスは、チノーの師でもあるキコックから「天の時と地の利を知り、その中にあって人が取るべき道を示すことができる人物」を得てサフィアの支配から脱するよう助言を受ける。しかし、そうした彼の行動はネビルクトンのサフィアとの対立をさらに深めることにもなった。一方バグハート家の滅亡直前に宮廷を追われ田舎で侘び住まいをしていたアンティルは、かつて自分が学んできた「科学」の力が他国で戦争に使われたとの報せを受け、乱世を終わらせて科学の力による大量殺戮を阻止するためティルドラスに仕えるべきか思い悩む。その彼を自ら訪ね招聘しょうへいするティルドラスに応じて、アンティルはついに彼の麾下に加わり、期待に応える献策を次々に行って彼の全幅の信頼を勝ち取る。
 やがてネビルクトンへと帰還したティルドラスは、シュマイナスタイのアーネイラを訪れた際に、隣国・カイガー家の当主・ティム=カイガーの娘で表向き男子として育てられてきた公女・ジュネと出会う。彼女を側室に迎えることでカイガー家と結び、摂政のサフィアから権力を奪還する助けとするよう進言するアンティルだったが、ティルドラスは、敵対関係にある大国・トッツガー公爵家の公女でかつての婚約者であるミレニア=トッツガーを正室に迎えることを望む。彼の想いを叶えるべく、部下たちはアンティルの指揮のもとトッツガー家を相手に外交戦を展開し、相手が婚約の履行に同意せざるを得ない状況にまで追い込むことに成功した。しかし、婚儀にあたって進物とした天下の名器・パドローガルの銀器がサフィアによって偽物とすり替えられていたため、一転して交渉は失敗に終わる。(第三話:冬終わる日に人来たる)

ティルドラス公は本日も多忙③ 冬終わる日に人来たる|MURA Tadasi (村 正)|note

 最後の手段として、ティンガル王家への参朝を行い王家の声掛かりによってミレニアとの結婚を成就させるべく、王家の直領へと旅立つティルドラス。往路に当たる国々でもさまざまな出会いと出来事を経験しながら王都・ケーシに到着した彼は、ケーシの王族のもとに嫁いだ姉・エウロナのもとに身を寄せつつ、ミレニアとの結婚に王・ゴディーザム=ティンガルの口添えが得られるよう各方面への働きかけを開始する。しかしその間にも、トッツガー家と属国・マッシムー伯国の間ではミレニアとマッシムー家の公子・ミギルとの縁談が進められ、さらに彼が不在のハッシバル領では摂政のサフィアの圧政によって領民の間に不穏な空気が漂うようになっていた。ティンガル王家の小役人であるトポス=ホーシギン、ティルドラス自身の又従兄弟であるミッテル=アークシーといった人物たちの助けを得て自身の結婚に王の口添えを得ることに成功しかけたティルドラスだったが、サフィアの意を受けた家臣たちが勝手に王家の娘との縁談を願い出ていたため王の娘であるルシルヴィーネ王女との結婚話が唐突に持ち上がり、ルシルヴィーネを自分たちが推すオーモール侯爵家の公子に嫁がせようと画策していた「勤王の士」たちを敵に回すことになってしまう。ルシルヴィーネとの縁談を辞退し改めてミレニアとの結婚に王の口添えを得ようとするティルドラス。しかし願い出が聞き届けられるはずだった王宮への参内の途中で「勤王の士」たちによる襲撃を受けて斬り合いとなり、そのことを咎められて謹慎させられている間に、トッツガー家からの使者がミレニアとミギルの縁談を王に願い出て認められ、彼の願いは結局叶わぬままに終わる。(第四話:都ケーシの宮廷で)

ティルドラス公は本日も多忙④ 都ケーシの宮廷で|MURA Tadasi (村 正)|note

 時にミスカムシル歴二八二一年十月。のちに史家から「嵐の年」と呼ばれる二八二二年と、その中でティルドラスに襲いかかる数々の苦難は目前に迫っていた――。

付随音楽集:『ティルドラス公は本日も多忙』のための音楽

Incidental music for "Tildras"|MURA Tadasi (村 正)|note

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?