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【アルバムレビュー】Upon Stone - Dead Mother Moon (2024)
以前、90年代型のメロディック・デスメタルを志向したバンドの勢いが増しているのではないかといった趣旨の記述をしたことがある。
事実、昨年20 Buck SpinからリリースされたアメリカのMajestiesの1stアルバムは白眉の出来で、A Canorous Quintet辺りを彷彿とさせる曲を展開する彼らは、ここ日本でも一部で高い評価を得ていたし、世界的にも同様だったのではないだろうか。
そして今回の主役であるUpon Stoneも、今月リリースの1stアルバム『Dead Mother Moon』が90年代への憧憬を見せた素晴らしい作品となっており、更にそれが大手Century Mediaからのリリースということで、いよいよ「90年代メロデス・リバイバル」が到来したのかと、今後の世界の動向にますます注視したくなっているところである。
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Blind Guardianを始め数多くのメタルバンドのアートワークを手掛けてきたAndreas Marschallの絵が素晴らしい。In Flamesの3rdや4thのアートワークもAndreas作である。
今回、アルバムの中身について触れていく前に、私がこのバンドを知った経緯について書いていきたい。
私がUpon Stoneをいつ頃知ったのかというと、彼らが2021年作EPを出してしばらくしてからであるが、そもそも彼らを知るきっかけとなったバンドがいる。
Upon Stoneと同じくカルフォルニア出身のDarkness Everywhereというバンドである。
UPON STONE "Speak, Lower Angels" (OFFICIAL VIDEO) https://t.co/GWzzgGf8Bn @YouTubeより
— T. Murakami (@colony_mura) January 31, 2022
今度アルバム出すDarkness Everywhereのレーベルメイトのようだけどアメリカ西海岸ではこの手の90sスタイルのメロデスが盛り上がろうとしてたりする?
Darkness Everywhereは2022年にEPをリリースしているバンドだが(上の私のツイートではアルバムとなっているがEPの間違い)、そのEPは元々Upon Stoneが所属していたCreator-Destructor Recordsからリリースされていた。
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Creator-Destructor Recordsはデスメタルやハードコアを主に取り扱うレーベルで、どちらかというとハードコア色の強いクロスオーバー的なレーベルである(日本のKrueltyも過去に12インチを同レーベルからリリースしている)。
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そもそもCreator-Destructor RecordsはDarkness EverywhereのBen Murrayがオーナーのレーベルであるが、BenはLight This Cityのメンバーでもある。
Light This Cityというと、2019年に来日しており(私は2日とも観に行きました)、一般的にメタルコアと認知されていると思われるが、Darkest Hourのようなサウンド、すなわち限りなくメロディック・デスメタルに近いバンドということになる。
Darkness EverywhereはLight This Cityより90年代のスタイルに寄せたバンドであるが、Upon Stoneがどういったシーンから現れたのかここからある程度測り知ることができるのではないだろうか。
余談であるが、私はDarkness EverywhereはThe Black Dahlia Murderの故Trevor Strnadの投稿で知った。彼はアンダーグラウンド・メタルシーンに非常に精通していたところも尊敬できる点でした…。R.I.P.
ここで、Upon Stoneのバイオグラフィーについて見ていきたいと思う。
結成は2021年とまだバンドとしては若いが、ほぼ全員がこれまでもバンド活動を行ってきたようで、2024年1月現在のラインナップは以下の通り。
Xavier (Hands Of God, Regional Justice Center, Vamachara): Vocals, Bass (2021-present)
Ronny (Vaelmyst, ex-Statius, ex-Antikythera): Guitars (2021-present)
Wyatt (Eiris, Vaelmyst, ex-Statius): Drums (2021-present)
Gage: Guitars (2022-present)
ギターのRonnyとドラムのWyattは別でVaelmystというメロデスバンドを組んでいるし、これまでも他に同じバンドにいたこともある模様。
ベース/ボーカルのXavierについては所属バンドを見るにハードコア畑の人で、やはりこうした出自の人がいるのは彼らの特徴なのではないだろうか。
Gageの前任ギタリストJustinも、Dead Heatというクロスオーバーバンドに属しており、ここからもカルフォルニアのシーンの人の繋がりが伺えると思う。
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彼らの音楽性は、混じりけの無いメロディック・デスメタルであり、系統としてはAt The Gates, 初期In Flames, Eucharist辺り。
今回紹介する新譜『Dead Mother Moon』も、2021年作EP『Where Wild Sorrows Grow』も思わずニヤリとしてしまうほどに「スウェディッシュ」で、彼らの「メロディックなデスメタル」に対する造詣の深さを要所要所で感じることができる。
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とはいえ、完全に当時の焼き増しかというと決してそういうわけではなく、現代的な感性のもと制作されていると感じる。
2020年代のカルフォルニアで生きている彼らだからこそ出来上がったメロディック・デスメタルなわけだが、いよいよ今回の新譜について紐解いていこうと思う。
さて、ここから新譜『Dead Mother Moon』について書いていくが、このアルバムを理解するにあたって、彼らが今回の制作で影響を受けた10枚というのは理解の一助となるかもしれない。
At The Gatesの3rdやIn Flamesの3rdといった納得の名盤のみならず、Blind GuardianやGary Mooreにも影響を受けて制作されているというのも興味深い。
UnanimatedやEucharistにスポットを当てているのは流石だし、Dissectionの3rdがここに挙がっているのも見逃せない点だろう。
今回Upon Stoneが気に入った人は楽しめる記事だと思うので、時間があればチェックしてみて欲しい。
それでは、ここで曲目を記す。
Dead Mother Moon
Onyx Through The Heart
My Destiny; A Weapon
Dusk Sang Fairest
Paradise Failed (feat. Brian Fair of Shadows Fall)
Nocturnalism
To Seek And Follow The Call Of Lions
The Lantern
Dig Up Her Bones (Misfits cover) *Bonus Track
タイトル曲である1曲目「Dead Mother Moon」は先行してMVが公開されていた曲だが、最初からノックアウトされたという人は多いだろう。
のっけからスウェディッシュなトレモロリフで幕開け、ボーカルが入ってからのリフもまさしくメロディック・デスメタル。
サビでは叙情性抜群のメロディが途中から奏でられ、メロデス・マニアは思わず唸らされたのでは。
ギターソロも速弾きを交えたメロディアスなソロだし、後半に差し掛かってブラストビートが登場するあたりも彼らの技巧性の高さが伺える。
一旦ストップしてクリーントーンでのギターが奏でられ、そこから最後にサビに入る流れも完璧。
完全に彼らの代表曲となるようなキラーチューンである。
同じく先行公開されていた2曲目「Onyx Through The Heart」もトレモロリフで始まるが、こちらは中速(約175 BPM)でのブラストビートがメロブラ方面からの影響を感じさせるものとなっている。
先に貼った記事でも彼らはメロディック・ブラックからの影響もあると公言しているが、組み込み方が非常に上手いなと感じる。
この曲に限らないが、随所に叙情的メロディが挟まれるのはまさにIn Flamesの3rdを彷彿とさせ、思わずニヤリとさせられる。
そんな本曲も、90年代のメロデス/メロブラが好きな人は必ず気に入るであろう名曲となっている。
続く3曲目「My Destiny; A Weapon」も叙情的なトレモロリフが多分にフィーチャーされており、北欧らしさがかなり出ている。
最後にギターがクリーントーンに切り替わって、静寂のまま終了するのもドラマティックで素晴らしい。
Amon Amarthの『Versus The World』も本作に影響を与えた1枚のようだが、『Versus The World』における曲構築からの影響が特に反映されているのが「My Destiny; A Weapon」だそう。
4曲目「Dusk Sang Fairest」は完全に初期In Flamesといった感じの3拍子の曲であり、哀愁漂う雰囲気に思わず泪が・・・。
これまでにも登場したような静寂なアコースティック・パートから、最後はブラストビートに主題のメロディをマイナーチェンジしたようなトレモロリフによって曲が終わるわけだが、とにかくこのアルバムは曲展開が秀逸であり、流石と言わざるを得ない。
5曲目「Paradise Failed」は再びアップテンポな曲に戻るが、この曲の特徴はShadows Fallのボーカルがゲスト参加していることだろうか。
Shadows Fallというとアメリカのメタルコアシーンの最初期から活躍しているバンドとして著名だと思うが、彼がこうして参加しているのも、元々Upon Stoneが活動していた土壌が見えてくるようで興味深い。
アルバム・ジャケットのような神秘的な雰囲気の漂うアコースティックのインスト曲「Nocturnalism」を挟み、7曲目「To Seek And The Follow The Call Of Lions」に入るわけだが、この曲は元々2022年にGageが加入後にリリースされていたシングルである(このバージョンは2021年EPのCDにボートラとして収録されている)。
本作収録バージョンについては、始まり方が違ったり、リミックスされていたりと勿論原曲と異なる点はあるが、基本的には同じ。
4拍子から3拍子に変わってまた戻るリフ展開は彼らの敬愛するAt The Gatesからの影響を感じることができ、これまたメロデス者には堪らない1曲となっている。
個人的にはギターソロ裏でブラストビートし始めるのもポイントが高い。
本編ラストとなる8曲目「The Lantern」はAt The Gates的なリフから開始し、すぐにアコースティックパートに入った後に、再び疾走し始めるという展開。曲構築の妙をこれでもかというほどに聴くことができる。
これまで90年代メロデス好きのツボを押さえたリフやメロディが繰り出され続けてきたわけだが、最後も抜かりなく素晴らしい曲となっており、彼らの「あの時代」に対する理解度の高さには敬服するばかりであるが、この曲のラストはエンディングらしくフェードアウトして終了。
よくある終わり方かもしれないが、最後の最後まで拘りが見られるなと個人的には感じた。
ボーナストラックはMisfitsのカバー。
原曲は知らなかったのでこれを機に聴いてみたが、Upon Stoneのカバーは原曲に忠実でありつつも、彼ららしさも出した仕上がりになっているなと感じた(選曲的にXavierの趣味だろうか?)
『Dead Mother Moon』はとにかく最初から最後まで隙の無いアルバムであるが、意外なことにアルバム全体ではボートラ込みで32分程であり、ボートラ抜きでは本編は30分を切っている。
もう1曲あっても良かったのではと思わないでもないし、物足りないと感じる向きもいるかもしれないが、フルアルバムは30分~40分くらいが個人的にちょうど良い長さと感じるので(勿論それを超過していても良いが)、本作を評価するにあたってこの長さは全く問題にはならない。
むしろ、NWOTHMやリバイバル・スラッシュ、OSDMの復興を経て、ようやく90年代型のメロディック・デスメタルを演奏するバンドがこうして取り上げられることは大変喜ばしく、そんな渾身の力作を作り上げたUpon Stoneには最大級の賛辞を贈りたい。
まだ2024年も始まったばかりであるが、早くもAOTYの超有力候補として躍り出たと思うし、私と同じように感じた人も多いと思う。
「再構築」がトレンドとなって久しいが、メロディック・デスメタルの分野でも、90年代のメロディック・デスメタルやメロディック・ブラックメタルを現代的に解釈したバンドが今後も増えることを、個人的に楽しみにしていきたい。
・・・というわけで、今回noteのほうで初めてアルバムレビューを行ってみましたがいかがだったでしょうか?
こういうレビューはずっと書きたいと思っていたので(昔ブログで書いたことはありますが)、かなり力の入ったレビューをしましたが、今年はこうした記事も上げていきたいと考えています。
今回取り上げたUpon Stoneの新譜は本当に素晴らしい出来なので、まだ聴いていないという方は是非聴いてみて欲しいです(サブスクのリンクも貼っておきます)。
今回のレビュー記事にご感想があれば、コメント欄またはTwitterでよろしくお願いします!
それでは次回の記事でまたお会いしましょう。
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