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バスがバスじゃなくなる日

街中に隈研吾の建物が

おばあちゃん3人が手を振りながら、小走りで近寄ってくる。
スーパーの駐車場。
わたしたちが乗っている小さなバスを見つけて、
おばあちゃん3人が手を振りながら走ってくる。
バスをめがけて。

なかなかシュールな光景だった。

おばあちゃんたちは
「バスに乗せてくれ」
という。
どこに行きたいから、というわけではなく、
「バスに乗せてけろ」
と。バスに乗りたいんだ、と。

茨城県境町の自動運転バス。
リーダーシップ・チャレンジの秋庭農園での稲刈りとハーブティのワークショップが終わって、
せっかくだからということで、
メンバーと秋庭農園(茨城県古河市)からクルマで30分ほどの境町へ。

道の駅でBOLDLYの佐治友基社長と待ち合わせ。
BOLDLYは、自動運転バスを運営している会社。
佐治さんとわたしたちは、
自動運転バスに乗って、境町めぐり。

境町めぐり、というより、隈研吾建築のお店や施設めぐり。
めぐり、といえるほど数がある。
6施設。
道の駅にあるサンドイッチのお店、カフェ、美術館、ワイナリー、レストラン、姉妹都市施設。人口3万人に満たない小さな町に、隈研吾が6つ。
大きな隈研吾じゃなくて、それそれ小ぶりの隈研吾だけど、
やっぱり隈研吾は隈研吾、ひと目で「ああ」とわかる。

S-ブランド(HOSHIIMONO 100 cafe)
S-Gallery(美術館)


なんでこんなたくさん隈研吾があるのか。
超有名建築家の隈研吾のデザイン建造物、
けっして安いものではない。
ではなぜ?

消滅する自治体から稼げる自治体へ

町にはお金があるから。
なんでお金があるのか?

境町は、財政破綻、企業の衰退、人口減少、空き家増加、
の消滅予定地方都市だった。
それが、いまや日本全国から視察に訪れる町になった。

ふるさと納税6万円が7年で7万倍!の5億円。
町の借金は7年で95.3%削減、
自力で稼げる自治体になった。
人口減少は下げ止まり、逆に子育て教育支援施策が効果を発揮して、
移住者が増えている。

そこへ、自動運転バスの導入。

バスが「つなぎ役」に

自動運転バスは街中の細い道路を網の目のように走り、
その外側を走る既存の路線バス、タクシー、鉄道と接続している。
今までは自分で運転するしかなかった高齢者や子育て世代が、
子どもたちだけで、あるいは運転免許証を手放して、
自動運転バスを利用するようになった。

財政、町民サービス、公共事業、教育事業、スポーツ事業、
いろんな施策がつながって、
町に活気が出てきた。
つなげている「役者の一人」が自動運転バスで、
かわいいペインティングをしたバスは走っていると、
レストランの中から、歩道を歩いている子どもたちから、
手を振って愛情を示される。

ホントに手を振る光景を何度も見た。
町の人気者になっている、バスが。

近未来が見えてきた

運転手は乗っていない。
プログラムされてるとはいえ、
乗っているとまるでバスが自走しているような感覚になる。
側道に自転車が通るときにはぶつからないように、
また、バス停で止まり、人を乗せて発車する。

車内カメラで車内をモニタリング
佐治友基社長

そのうち、車内カメラで捉えたAIの顔認証で、
バスが話しかけそうな予感もする。
「こんにちは、○○のおじいちゃん。
今日は顔色もいいね。昨日、何かうれしいことあったの?」

おじいちゃんもそれに応える。
バスもパターン化された答えの中から応答する。
誰かが会話に割って入っても平気。
それもまたAIがきれいに対処できるようになっている。
しかも、自然に。

バスがバスじゃなくて、
バスが友だちになるのかもしれない。
そんな日がもうそこまできている。

移動するために乗るのではなく、
乗りたくて乗っているおばあちゃんたちがいるのも、
不思議じゃないのがよくわかった。

町をぐるぐる回って循環する自動運転バスが、
町の活性化の好循環に貢献している。