見出し画像

日曜大工と修繕のコミュニティづくり

土曜日午後5時。
いい感じの陽射し、さらっとした風。
芝生の上に椅子とテーブルがあって、
クラフトビールを飲みながら、SDGsのトークイベントを見ている。
団地の住人、ご近所の人たちが三々五々集まってきて、
歩きはじめたばかりの子どもが、芝生の上をよちよち歩いている。
セミの鳴き声が、zoomからのデジタルな音声を上書きする。

福岡県宗像市にある日の里団地は、50年前に完成し、
70棟を超すアパートとおよそ3000の一戸建てが並び、
最盛期には2万人が住んでいた、九州では最大級の団地だった。

今でも1万人以上が住んでいるが、65歳以上の高齢化は35.4%、
建物も老朽化して、先が見えなくなった。

そこで、団地の人たちは話し合った。
どうやったら、ここで自分たちが生きてきたバトンを、
上手に次の世代に受け継いでもらえるか。
どうすれば、日の里団地というコミュニティを修繕できるか。

住民とUR(都市再生機構)は4棟を解体、6棟を民間に売却、
解体4棟の跡地を戸建ての宅地に整備し、
売却1棟をコミュニティ再生のプラットフォームにすることにした。

プラットフォームは、旧48号棟、
そこからプロジェクトは「さとづくり48」として動き出した。

プロジェクトの中心にいるケイスケさんは
「古くて狭い、という団地をどう活かすか、なんですけど……」
どちらかというとコミュニティ的に閉じていた団地を、
旧48号棟の1階に
・地元の大麦を使った地産地消のクラフトビールのブリュワリー
・地元の食材を使った地産地消のコミュニティカフェ
・地元の子どもたちが通う幼稚園
・最新の設備を備えたDIYの工房
・みんなが使えるレンタルキッチンスペース
をつくって、
「団地の外と内とのつながりを広げていきたいんですけど……」

きちんとした完成予想図があるわけではない。
ただ「こうありたい」「こうあればステキ」のイメージと、
ロールモデルはきっちりとある。

地元企業のサニックスがもつ多目的スポーツ施設「グローバルアリーナ」だ。
サニックスが地元に貢献したい、と、2000年に開業した。
天然芝のグラウンドではラグビー、サッカーができ、
テニスコート、武道場、体育館、トレーニングジムがあり、
宿泊施設とクラブハウス、体験学習ができる手作り工房、
ベーカリーカフェ、レストラン、バーベキューサイト
などなどなどなどがあって、
すべて社員が運営している。
芝生の世話をする、パンを焼く、宿泊施設を運営するプロフェッショナルを雇うのではなく、
たとえば昨日まで営業部にいた社員が、今日からパンを焼く。
たとえば昨日まで経営企画にいた社員が、今日から芝生をメンテナンスする、
どこにも負けないような美味しいパンをつくる。
どこにも負けないような青々とした芝生を育てる。
自分たちで勉強して、誰彼なく助けてもらいながら、
やらされ仕事じゃなく積極的に創意工夫を重ねていく。

「さとづくり48」も、ケイスケさんの会社の社員がクラフトビールをつくり、
DIYの工房を切り盛りし、コミュニケーターとして走り回り、
地元の小さな会社と少し大きな会社とがコラボを組んで。
「街づくり」ではなく「里づくり」につながってきている。

「主体的にかかわる人たちが増えると、コミュニティが強くなるはずなんですけど……」

完成形があって、そこに資源を集中的に投資する、そのために進行表がある。
ピーター・ドラッカーの「選択と集中」だ。
それに対して、「分散と修繕」という考え方がある。
資源を分散させておいて、複数のプロジェクトを走らせる。
そして、状況を判断してその資源を寄せ集め、組み上げる。
ブリコラージュ(修繕する、日曜大工)といわれる。

「選択と集中」と「分散と修繕」の違いは、家庭での晩ごはんのつくり方で例えられる。
レシピがあって、スーパーに食材を買いに行って、ビーフカレーをつくる。
に対して、
冷蔵庫の中の食材で、ありあわせだけどそのときの気分にあった料理をつくる。

団地の中、団地の外、地元の宗像の人たちと、
大阪や東京やよそから来た人たちとを巻き込んでいって、
企業と行政とをつないでいって、
どんなふるさとができていくのか。

正解があるわけではない。
選んだ選択肢を正解にするしかない。
立ち止まってはいられないから、走りながら考えていく。
考えては試してみて、いけるならいく、ダメならほかの方法を試してみる。

ブリコラージュだから、そのコミュニティは少しずつ継ぎ足されていくんだろう。