田中先生最終講義

「興味があることをやりなさい」

田中愛治先生の最終講義。

なぜ自民党政治が長く続くのか、
有権者の投票行動から分析する、
というのが先生の研究テーマだった。

大隈講堂のステージに上がって、
お礼やらなんやら、噛みまくりで緊張している
落語でいうところのマクラの中で、
「ここ2日間ずっと考えてきて、
ああこれじゃないか、
と考えにいきついたことがあって、
一夜漬けでパワポの資料を作ってプレゼンする
大学院生のような講義になるかもしれません」
といって、笑いをとった。

定説では、
(1)政治文化(2)選挙制度(3)利益配分
で語られていた。

(1)政治文化:お上意識
(2)選挙制度:中選挙区
(3)利益配分:中央集権化された予算の配分

(1)政治文化は、生まれが1945年から遠くなるほど、お上意識が薄れている
(2)1996年から小選挙区比例代表並立制に
(3)個人に配分されるわけではなく、組織(後援会、農協、商店街、青年会など)に配分されたが、この組織加入率が低くなった

ということで、定説は覆っている。
組織された有権者が減って、
代わりに増えたのが無党派の有権者。

組織された有権者は、自分たちの組織や地元とつながる議員を代理人としたが、
組織がない人たち、つまり無党派層は、
中央政府のリーダーを自分たちの代理人とみなす。
代表的なのが、2005年の郵政選挙における小泉純一郎首相。

組織された有権者は、自分たちの利益を優先したが、
組織がない無党派層は、社会全体の経済的な恩恵を優先する。
ここで、日本は
「政治的満足度が低い」(支持政党なし)
けど、
「生活的満足度が高い」(資本主義経済支持)
という状況になる。

とういことであれば、有権者は選挙のときにどういう判断基準になるか。
「政治、経済システムを上手く運用できるかどうか」
という判断基準になるんじゃないか、という仮説をたてて検証してみたら、
ドンピシャあてはまった。
「政治、経済システムを上手に運営できる」
政党に政治的正当性を与える投票行動になるのが無党派層で、
こうした民主主義政治システムに対する支持態度のことを
「システム・サポート」と呼び、
システム・サポートを得た政党が、政権を担当する。

最終講義は30分、ここで終わった。

コメントを求められた河野勝先生は、
「田中先生とは長い付き合いだが、
システム・サポートと無党派層を結びけた
すっきりした説明をようやく聞けた」
とコメントした。

どうやら、田中先生の研究は、
この2日間、最後の最後になって完成したようだ。

会の終わりに、コメントのコメントを求められた田中先生は、
大隈講堂にいる学部生、院生、卒業生たちに対して、
「ずっと考え続けることが大事だから、ずっと考え続けてください」
と結んだ。

田中ゼミ出身の遠藤昌久先生いわく。
田中先生は、「興味あるがことをやりなさい」、という教育方針だった。
興味あることじゃないと100%の力が出ないし、
興味あることであれば100%以上の力を発揮することもある。
自分自身を飛躍させることができる。
ただし、その興味あることが、
本当に意味があることがどうかを、見極める必要もある。
学びはタコツボ化してはいけない。
いろんな先生から、いろんな学説から学ぶこと。
社会の現実からも学び取ることが大事。
社会科学は、社会と科学のバランスが大事。
科学に偏ってはいけない。
社会の現実も観る。

そして、研究結果は公共財である。
すみやかにオープンにすべきだし、
公共財として耐える価値を持たなくてはいけない。


いま、というか、新しい大隈塾になって、
ずっと悩んでいるのが、プロジェクトをどうしようか、
どうしたら効果的に運営できるか、ということ。
80〜100名の学生たち全員参加が前提で、
そのためにある程度のプロジェクト数を確保しなければならない。
あまり多いとマネージメントが大変だけど、
少ないとひとつのプロジェクト内で活動量と熱量の差が出てくる。

歴代SA(Student Assistant)たちとずっと試行錯誤している。
プロジェクトは、講義やグループワークに比べて、
受講生たちからの評価は高くない。
でも、大隈塾は、
・学生主役
・アクティブラーニング
・プロジェクト
の三本柱で成り立っている。
プロジェクトははずせないし、
大隈塾の学び方を価値あるものにするためには、
大人数参加の複数プロジェクト学習を
効果的にマネージメントできないといけない。

興味があることをやる、
ずっと考え続ける。

Try and Learn の連続だが、
田中先生の最終講義でまた、
Tryのヒントをもらえた気がする。