仔牛の散歩

美味しい楽しいをシェアする

養豚家の高橋希望さんと大隈塾の学生たちで、
八王子にある磯沼ミルクファームにいってきた。

大隈塾には高橋希望さんといっしょに、
高橋さんの「有難豚」を育てて食べる、
「くまぶ〜」というプロジェクトがある。
今回は、くまぶ〜のお年寄り(4年生以上)メンバー。
若い衆(3年生以下)は試験期間中のため待機。

磯沼ミルクファームは街なかにある牧場で、
放牧しているそばには車道があり、クルマがそこそこ通っていたりする。
牧場主の磯沼正徳さんは、地元で磯沼家14代目。
お父さんの代から牧場をしている。

「街のなかの美味しい楽しい牧場」
①七種の乳牛を育て、七色の乳製品を作り地域の皆様に提供してまいります!!
②家畜福祉アニマルウエルフェアを学べる牧場体験教室を充実させます!!
③循環型サスティナブルなシティファーム、市民参加型牧場システムを作ります!!
④牧場オープンファームで牧場を公開、シティファームとして社会貢献してゆきます!!
⑤酪農教育ファーム認証牧場の役割として学習の場を提供してまいります!!

磯沼さんは、いつ行っても歓迎してくれるし、
周りの住民も牧場を横切っていったり、
堆肥を買いに来たりする。
オープンな牧場。

仔牛を見学していたら、
牧場スタッフと実習の高校生が、
ネコグルマ(一輪の台車)を押して急いでいる。
なにを乗せてるのかと思ったら、
「仔牛が生まれた」
生まれたばかりの仔牛だった。
ぐったりしている。
「さっきまで母牛の体内にいた幸せの余韻に浸っている」
と、くまぶ〜メンバーのひとりがうまいことをいう。

磯沼さんの牛の飼い方は独特で、
仔牛は生まれてすぐに母牛から離してしまう。
個室でしばらく、大事に育てる。

というのは、
牛舎はよくあるような個体の仕切りがなく、
十数頭が自由に動き回っている。
放牧場も別にある。
母牛と一緒だと、衛生的によくない。
仔牛のフンがどれだかわからないから、
体調の管理ができないし、
濡れたところに寝そべって、感染症にかかる恐れがある。

なにより、母牛は仔牛が飲める10〜20倍のお乳を出すので、
搾乳したものを哺乳瓶で上げたほうが母子ともによい。
そしてすぐに草を食べ始めるので、母乳は必要なくなる。

磯沼さんは、
「母さん牛からすぐに離すから、
仔牛と飼う側との信頼関係がとっても必要になるよね。
声がけして、ブラッシングして、スキンシップして。
寂しさを紛らわせる、ということでもあるし」

養豚家の希望さんは、そこが仔牛と子豚の育て方の違いだという。
「豚は、子豚のときから母親と一緒に育てます。
子豚のときから集団生活できるように環境を整えます。
牛は一頭から一匹だけ生まれるけど、
豚は一頭から何匹も生まれる、っていう違いはありますけど、
コミュニケーションが大事なのはいっしょです」

磯沼さんは、20代でオーストラリアに3週間留学し、
牧畜文化を体得してきた。
「牛とともに生きる、っていうことです。
楽しむってことでもあるかな」
仕事としてではなく、生活そのものとして。
効率や合理性はない。

ともに生きる、効率や合理ではない一例として、
エサを上げる時間を決めていない。
いつでも食べられるようになっている。
自由採食。
草、水、塩分、食べ放題。
これに対するのが、制限給餌。
ふつうは、制限給餌だが、
食べ放題なら食べ過ぎないですか?

「穀物がエサなら、食べ過ぎると太ります。
けど、草だからいくら食べてもいいんです。
逆に、繊維をたくさん取れるように胃が4つあるし、
エサがあることで安心できるから落ち着ける。
自分でコントロールできるので、
腹八分目で食べるのやめるんです」

磯沼さんの牧場では、牛がも〜も〜ないていない。
牛は、不満があるときに、も〜も〜なくそうだ。
この牧場の牛は、満足度が高い、ということだ。

もうひとつ。ともに生きるのは、住民の人たちとも、
ともに生きる。
「美味しい楽しい、を地域と共有する。
地域の人たちの力を借りて、美味しい楽しいを共有」

少量の牛乳から、少量のジェラートをつくるマシンを
イタリアから買い付けた。
たとえば、一頭分の牛乳からヨーグルトをつくる。
とすれば、
「うちの牛には名前がついてます。
指名してヨーグルトが買えるんです」

花子のヨーグルトください、ができる。
いつも花子をなでてあげてるから、
花子は自分のことをわかってくれている。
ご近所さんがふらっと牧場にきて、
なででさわって、コミュニケーションをとりながら、
その牛のヨーグルト、ソフトクリームを食べる。

美味しい楽しいをシェアする。
地域と住民とでシェアする。
牛と人間とでシェアする。