年少、幼稚園の課外教室でヴァイオリン①
「muppyくーん、お母さんが迎えに来たよー!」「バイバーイ!」「また明日!」「ヴァイオリン頑張ってねー!」
年少さんの教室の皆んなに見送られながら、親子で年長さんのお部屋へ移動してヴァイオリン(個人)レッスン。
普段はバス通園だけど、レッスンのある日はママが幼稚園に迎えに来てくれるので息子も嬉しそう。
レッスンが終わると川沿いの道を親子でおしゃべりしながら歩いて帰ったり、繋いだ手をブンブン振りながらさっき習った曲をドレミで歌ったり、近くの公園のベンチに座っておやつを食べたり。
しかしこれらは年少さんの1年間限定だったような気がする。年中さんからは何かと忙しくなり、レッスンが終わったらさっさと帰っていたように思う。
ヴァイオリンの先生は外からやって来られた。普段はいろんな所で教えておられるフリーの先生らしかった。そして信じられないことに、幼稚園には一度もヴァイオリンは持って来られなかった。たったの一度も!
第一印象はとにかくニコニコされていて、とても気さくな先生だったので、私は何でもかんでも初歩的な質問を沢山してしまっていた。すると段々と先生は「このお母さん、そんな事も分からないのね、アハハ…」というようにクスクス笑われるようになった。私は別に笑われても、本当に自分は無知で素人だから仕方ないと思っていたし、質問するばかりではなく、本やネットを見て勉強もしていた。その上で、レッスン内容で分からないことや疑問点が生じたので「ネットにはこう書いてあったのですが、、」と言うと今度はムッとされた。
機嫌が悪い時は本当にはっきりと分かって、息子に対しても、こちらの背筋が凍るような怖い表情で「ダーメー!」「ちがーう!」と言われたり、私に対しても嫌味を言ってこられたりした。いろいろ言われたけど、一番覚えているのは、その時使っていた教本の中の解説部分を指して「読まなくてもいいですよ。(どうせ)分からないでしょ?」と言われたこと。
しかし基本的にはニコニコされていて、幼稚園の先生のような喋り方をするので、幸い息子は嫌がらずにレッスンを受けていた。私は私で、それなりに気を遣って、職場のちょっと苦手な上司に接するような感じで接していた。
週に一回、レッスンに行くと、まず先生にヴァイオリンを差し出すところから始まる。毎回先生に調弦をしてもらうためだ。
信じられないことに、「お家では調弦しないでください」「ここ(ペグやアジャスター)は動かさないでください」と念を押されていた。「どうしても困った時は、アジャスターをほんの少し回すだけならいいですよ」「それでもダメだったら私を呼んでください」「とにかく、ペグは絶対に触らないで!!」と。
最初のうちは素直に従っていたので、毎日毎日調弦が狂ったまま平気で弾いていたのだと思う。しかしある時、自宅で練習中に息子がアジャスターをクルクル回し始めてしまった。「わーどうしよう!音がヘン(泣)」「ペグを回せばいいんでしょう?」「先生に電話する?」しかしこんなことで先生を呼び出すなんて、どう考えてもおかしい。まさか家に来てもらうわけにもいかないし、今から幼稚園に行くなんて無理!
「少しくらいなら大丈夫よね…」とペグを回し始めた私。
何ということもなかった。息子に音を確認してもらいながらゴリゴリとペグを回して何とか元に戻せた。
弦を張り替えたり、弓の毛替えをしたりする必要があるということも、長い間知らなかった。大分後になって、一度だけ先生から「プロはね、大事な演奏会の前日に弓の毛を綺麗に毛替えするんですよ」と教わった。私達がヘェーという顔をしていたら、「ああ、プロの話ですけどね」と強調された。
だから私も長い間、そういうことをするのはプロだけであって、素人や子供には関係ないことだと思い込んでいた。
7月の中旬に幼稚園は夏休みに入った。8月は幼稚園自体が閉まってしまう。
「ヴァイオリンレッスンは1ヶ月お休みです」
びっくりしている私達に、先生は「夏は暑いからみんな疲れちゃうの」「だから皆んなお休みするのよ」「ゆっくり休んでまた9月になったら元気な姿を見せに来てね」と。
えー、どうしよう。せっかく幼稚園生活とヴァイオリンも軌道に乗ってきたのに。
仕方がないので、私が毎日息子をプールや公園に連れて行ったりしながら、ヴァイオリンの練習の計画を立てて、今までに習ったことの復習をした。
この年の夏休みは、家族で北海道旅行に行った。旅行中息子はずっとドレミの歌を歌っていた。リトミック、ヤマハ時代も含めて、いろんな所で聴いたメロディをドレミで歌っていたのだ。自作の歌もあったと思う。音程が合っていたのかまでは分からないし覚えてない。
そんなに音楽が好きなら、もっと本格的な教室を探してみようかとネットで探しているうちに、「桐朋子供のための音楽教室」というのを見つけた。年少さんからこういう所に行かせてあげたら息子も喜びそうだし、才能が花開くかも?しかし、とにかく月謝が高い。幼児向けの音楽教室の月謝としては、当時の私の感覚からすると高く感じられた。更にどの教室も家から遠かった。しかも、教室名からしてずっと「桐朋」、桐朋学園大学音楽学部へ行くことが前提の教室のように思えてしまった。
あどけない少年少女達が目を閉じて眉間にシワを寄せながら楽器を演奏している写真をチラッと見ながら、やはりここは我が家には敷居が高そうだと思い、そっとページを閉じた。
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