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アーネンエルベや日本オカルト史、巨石写真紀行まで/ムー民のためのブックガイド

「ムー」本誌の隠れ人気記事、ブックインフォメーションをウェブで公開。編集部が選定した新刊書籍情報をお届けします。

文=星野太朗


SS先史遺産研究所 アーネンエルベ/ミヒャエル・H・カーター 著

ナチス・オカルティズムの研究者にとって待望の書

 本誌の読者ならいざ知らず、一般的には「アーネンエルベ」なる歴史用語はほとんど知られていないといっても過言ではない。本書によればそれは「1935年、ナチス親衛隊(SS)全国指導者ハインリヒ・ヒムラーの主導により、ドイツ先史時代の精神史研究を目的として設立された知られざる研究機関」である。
 当初はゲルマン民族の歴史・民俗を専門としていたこの機関の研究対象はその後、「強制収容所での凄惨な高空・低温医学実験から、秘密兵器開発」にまで拡大し、遂にはルーン文字や紋章学、北欧神話、チベット探険、宇宙氷説、人種論、遺伝学、ダウジングロッドといったオカルト的領域まで包含するものとなった。
 となれば、「アーネンエルベ」の全貌の把握は、ナチスに興味をもつ者にとってはまさに必須となる。何しろこの「アーネンエルベ」こそ、現在に至るも半ば伝説化したナチスにおけるオカルティズム研究のいわば中核を担う機関。これを知ることなくして、ナチスとオカルティズムの関係やその先進的な軍事科学技術の真相を明らかにすることなど到底おぼつかない。しかもその主宰者は、「ホロコーストの執行者」「強制収容所の支配者」とされるあのハインリヒ・ヒムラーなのだ。
 にもかかわらず、冒頭でも述べたように、こと日本においては「アーネンエルベ」は今もなお、ほとんど「知られざる」存在である。そんなところへ突如として登場した本書は、ナチス・オカルティズムの真摯な研究者にとってはまさに干天の慈雨ともいうべき待望の書である。 
 著者ミヒャエル・H・カーターは文化的側面からのナチズム研究を専門とする碩学で、ヨーク大学特別名誉教授の称号を奉られている。本書はそんな彼の学位請求論文を改稿したもので、初版発行は1974年。つまり50年近く前の学術論文ということになる。だが同書は2006年に第4版を重ねるほど息の長い研究書であり、その価値は今なお他の追随を許さない。
 とはいえ、何しろ専門家を対象とする学術書であるから、本書の記述ははっきりいって難解である。のみならず、読み進めるためにはナチスやその時代に関する相当高度な知識が必要とされる。そもそも本書の分量自体が、読者の意気を阻喪させる
恐れすらある。何しろ全800ページ、原稿用紙に換算すれば2000枚はあろうかという大作なのだ。
 しかも日本語では初出となる専門用語も数多く含まれている。翻訳者の方々の労苦は察するに余りある。
 価格も1万円近く、お手ごろとはいい難いものの、その内容とボリュームを勘案すれば決して高い買い物ではない。何せ文字通り50年に一度、登場するかどうかという名著中の名著である。このような高邁な企画を今後とも安定して継続していくためにも、読書家のご協力は欠かせない。ぜひ、こぞって本書を買い求め、書架に加えていただきたい。


クリスタルと仲良くなる方法/FUMITO 著

個性を持った「同志的」な存在としてのクリスタル

 クリスタルとは主として二酸化珪素の結晶のことだが、古来、予言や霊視の道具として水晶球が珍重されてきたように、クリスタルと神秘主義のかかわりは深い。昨今では「パワーストーン」などと総称され、スピリチュアル・ブームに乗って、さまざまな関連本が書店の棚を賑わしている。なかにはクリスタルを単なる「護符」として捉え、もっぱらその「効能」のみを売り物にしたノウハウ本も散見される。
 本書はそのような凡百の類書とは一線を画している。標題通り、一貫して「クリスタルと仲よくなる方法」が説かれているのだ。
 つまり、クリスタルを単なるモノとして見るのではなく、あくまでもひとつの個性を持った「同志的」な存在と見做し、仲よくつき合っていこうという姿勢である。著者の教えに従ってクリスタルと接していく内に、あなたの人生は加速度的に変化し、「魔法のような人生を楽しむことになる」と著者は断言する。
 著者FUMITO氏は神社の家系に生まれ、神職を務めながらクリエイティブプロデューサーや空間演出家、写真家として幅広く活躍する異色の人物。本書はそんな著者の人柄が滲み出てくるような優しい文体で、読書の苦手な人でも気軽に親しめるだろう。自分で愛読するのはもちろん、愛する人への心のこもったプレゼントにも最適。その際には、あなたのお気に入りの素敵なクリスタルを本書に添えて贈るとよいかも。


稲生物怪録/東 雅夫 編

日本史上最大にして最高の妖怪物語を贅沢に読む

『稲生物怪録』とは、寛延2年、広島は三次(みよし)藩の武士・稲生平太郎の屋敷に生じた怪異を記した物語の通称である。民俗学者・谷川健一をして「個人の想像力の域を超絶した化物たちの饗宴」「日本の妖怪譚の白眉」といわしめた、日本史上最大にして最高の妖怪物語であり、苟いやしくも妖怪ファンならば必ず押さえておくべき基礎教養といえよう。それが今回、文庫本というハンディかつ安価な体裁で入手可能となったのだから、注目せずにはいられない。
 本書をひもとくと、まず『稲生物怪録絵巻』と呼ばれる享和3年の絵巻物が全ページ、フルカラーで収録されていて度肝を抜かれる。ここに描かれた妖怪たちの凄まじさ、多彩さは、現代のアニメや特撮のそれを遙かに凌駕するものだ。これだけでも十分に買いである。
 次の『三次実録物語』がまた凄い。何と、稲生平太郎本人が著したとされる事件の実録を、現代最高の妖怪作家・京極夏彦氏が、あの独自の文体で活き活きと現代語訳しているのだ。史上最高の妖怪譚を語るのに、これほどの適任者はほかにあるまい。
 そして最後に、稲生平太郎の同僚であった柏正甫なる人物によるルポ『稲生物怪録』。こちらの現代語訳は、これまた怪談の第一人者である東雅夫氏である。
 これほど贅沢な書物はちょっと考えられない。しかも880円という良心価格。もはや買わないという選択肢はどこにもない。


日月神示とパワースポット/中矢伸一 著

「日月神示」の観点から見たパワースポットとは?

 近年、運気向上も兼ねた手軽な行楽地としてブームを呼んでいる「パワースポット」。だが実をいうと本書の著者は、軽佻浮薄な昨今の「パワースポット」ブームには釈然としないものを感じていた。そんな著者があえてパワースポットをテーマとした本書の執筆に至ったのは、最初の「入り口」としてなら「そういうライトな形で神様を信じたり、神社と親しんだりしてもいいのではないか」と思い直したからだという。
 著者・中矢伸一氏は、1991年に、当時ほとんど知られていなかった『日月神示』を初めて広く日本に紹介した人物。まさに『日月神示』の第一人者と目されている。本書は、『日月神示』の観点から見たパワースポットを出発点として、日本の神々とはいかなる存在か、その真髄に迫る驚くべき書物だ。
 著者によれば、この日本列島自体が神の肉体であり、この列島に災害が多いのはそれだけ霊的エネルギーが強烈に作用している証左。いわば「日本列島全体がパワースポット」にほかならないのだという。
『日月神示』は今後、令和時代の日本を襲うことになる天変地異や経済崩壊も予告している。そうした厳しい時代において、われわれ日本人はどのような心構えで、どのように生き抜いていくべきなのか。その鍵の一端は日本各地に点在する、そして日本列島そのものでもあるパワースポットとのつき合いかたにある。全日本人必読の書といえるだろう。


日本のオカルト150年史/秋山眞人 著

存在自体がまさにひとつの奇跡というべき傑作

 この標題にはまず驚かされる。150年に及ぶ日本の膨大なオカルト史を、一冊の書物にまとめ上げるなどということがはたして可能なのだろうか。
 そう訝(いぶか)りながらともかく本書を拝読したが、これは凄い。本書は存在自体がまさにひとつの奇跡というべき傑作である。だが本書の著者が、『ムー』の読者にはお馴染みの秋山眞人氏であると知れば、その奇跡もむしろ当然。何しろ氏は大学院の修士課程で大正期の霊術を研究。さらに自ら卓越した超能力者として長年にわたり、オカルト界の表も裏も知り尽くしてきた人物なのだ。
 しかも内容はまさに無類の面白さ。次々と投入される圧倒的な情報量に加え、文章の読みやすさ、そして行間に汪溢する著者の「オカルト愛」の深さに、読みはじめたら最後、ページをめくる手が止まらなくなる。
 当事者ならではの内幕暴露は手に汗を握るほどスリリングであり、また目から鱗が何枚も落ちて思わず膝を打つ場面も数知れず。よくもこれほどの情報を、このコンパクトな一冊で提供できたものだ。それでいて、単なる事実の羅列に終始せず、透徹した視線から見抜くオカルトや超能力の本質までをもさりげなく鏤めた緻密な構成には舌を巻くしかない。
 肯定するにせよ批判するにせよ、苟も「オカルト」に興味をもち、何かを語らんとする者ならば、すべからく座右に置いて知識の共通基盤とするべき、必携の基本文献である。何度も熟読し、己の血肉としたい。


今こそ知っておくべきフリーメイソンの謎と爬虫類人種の陰謀/並木伸一郎 著

フリーメイソンを牛耳る存在の真の正体に驚倒

 近年世界を驚かせた現象として、何から何まで型破りな人物であるドナルド・トランプ氏の大統領就任や、多大な政治的・経済的混乱をものともせずに強行されたイギリスのEU離脱がある。だれにも予想しえなかったこれらの事象の背後には、とある闇の勢力の暗躍がある、と本書は説く。その闇の勢力とは、いわずと知れたフリーメイソンである。
 アメリカ建国に大きく寄与したとされるフリーメイソンは、あらゆる陰謀論の総元締めとして、一般人にもその名を知られる秘密結社だ。
 本書の前半部分(1~3章)は、このフリーメイソンに関する基礎知識を簡便にまとめている。この部分だけでも、一般向けのフリーメイソンの解説書として好適な内容だ。続くふたつの章では、フリーメイソンとNASAの知られざる関係、そしてNASAが推し進めた宇宙開発の真相が語られる。
 だが何といっても本書の真骨頂は、後半の3つの章にある。そこで詳らかにされる、フリーメイソンを牛耳る存在の真の正体には、だれもが驚倒せずにはいられないだろう。
 本書はそのテーマや内容もさることながら、思わず惹き込まれる語り口の妙、大胆で小気味よい論理展開に至るまで、本誌「ムー」のテイストを彷彿させる。しかも、紙幅に限りのある本誌の特集や記事では望むべくもないほどの圧倒的な物量の投入で、読み応えも十分。本誌の愛読者にはまさに垂涎の一冊だ。


石の聲を聴け/須田郡司 著

世界50か国を訪ね歩いて撮影した聖地と石の写真集

 著者は今から約30年前、母親の死をきっかけとして体験した不思議な「胎内回帰」を通じて「石に呼ばれる」ようになったという。その後、『場所の記憶』で知られる宗教哲学者・鎌田東二氏との出会いを経て、聖なる場所と石、風土、人との関係を探訪する旅に出ることとなった。本書は、今や巨石写真の第一人者となった著者が、日本はもとより世界50か国を訪ね歩いて撮影した聖地と石の写真集である。
 ともかく、これらの圧倒的な写真の数々をご覧いただきたい。これらは単にその場の風景を切り取ってきただけの絵葉書的な写真とは次元が違う。石と感応できる人が全身全霊を込めた想いとともに撮影して、初めて為し得る偉業がここにある。
 そこでは写真はそれ自体が「窓」となり、鑑賞者がその場所を直接訪問することを可能とする。単なる視覚情報を遙かに越えて、写真を通じて現場の空気感や静寂の音がありありと感じられる。さらには、石、空間の持つ磁場やオーラのような超感覚的なものまでが、時空を越えてダイレクトに伝わってくるのだ。
 本書を開けば、そこはもはや一種の「神棚」。世界中の聖地と繋がり、本書を通じてそのエネルギーを取り込むことができる。そう感じられるほどのパワーと静謐(せいひつ)さに満ちた恐るべき写真集。巻末データの項目に各写真のサムネイルが入っているのも重宝する。細かいところまで目の行き届いた丁寧な仕事ぶりである。


(ムー2020年5月号掲載)


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