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金魚/黒史郎・化け録

だれでも「運が悪い」と感じるときはある。でもそれが、ずーっと毎日だったらどうだろう。
その「不幸」が、周囲にも伝染するとしたら。それも、得体の知れない現象として……。

文=黒史郎
挿絵=北原功士

不幸

「幸」と「不幸」の配分は平等ではない。
 一身に不幸のみを背負わされる人もいる。
 現在休職中というUさんは、まさに自分がそうであると自嘲する。

「なぜか自分だけハズレを引くんです。兄がふたりと妹がいて、子供のころはよく4人で遊んでいたんですが、私だけハチに刺されたり、バイクにはねられたり、急に変な病気になって片足が腫れあがったりして。そのたびに『Uは本当に運が悪いな』って親にいわれてました」

 社会人になってからもハズレは続いた。5回転職しているが、いきつくところすべて、ブラック企業か、上司がパワハラ系。ある印刷会社では教育係としてついた先輩がストーカーになり、ある文房具メーカーでは身に覚えのないロッカー荒らしの疑いをかけられる。
 付き合う男の引きも悪かった。アル中、DV、浮気・不倫に無職のヒモ。そのフルコースの男もいた。

 どうして自分は、こんなに不幸なのか。

 その原因は、すべてをネガティブに受け取る性格と、自分への興味のなさにあるのだとUさんは思った。自分に自信が持てず、自分の好きなところをひとつも見つけられない人間には幸せなどやってこないのだと。

「『私ってダメだなぁ』が心のなかの口グセになってました。そうなると身なりもダメになっていくんですね。髪はぼさぼさ、肌もガサガサ。電車のなかで視線を感じるなと思ったら、ズボンが破れてパンツが見えていたり、トイレから出た後にスカートがパンツのなかに入り込んでいるのを人から半笑いで指摘されたり。
 なんでこんなにダメなのに、私は生きてるんだろうって、自分が嫌になるんです。
――え、趣味? ありますよ、一応。ゲームです。今は侍が軍隊をつくるゲームにはまってて、毎日の楽しみはそれだけですね」 

 そんな話をうかがっていると、Uさんは私の左手の指輪に視線を落とす。

「ご結婚されてるんですね」

 そういうとUさんは溜息をついて、
「私も実は一度、結婚してるんです」
――金魚と。

3匹の金魚と

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