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きさらぎ駅・杉沢村・裏S区・コトリバコ…ネット書き込みが生んだ”現場”を行く!/吉田悠軌・オカルト探偵

ネットの巨大匿名掲示板やSNSで拡散される都市伝説は、その発端からして「創作」である――とは、限らない。その舞台となった場所に赴いた者は、不特定多数が紡いだ逸話と現実に、奇妙な符号を見つけるのだ。
(ムー 2017年4月号)

文=吉田悠軌

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吉田悠軌(よしだ・ゆうき)
怪談サークル「とうもろこしの会」会長、『怪処』編集長。写真は「きさらぎ駅」のモデルともされる遠州鉄道・さぎの宮駅(静岡県浜松市)を訪れたときのもの。

つくられた物語の源流を訪ねて

 インターネットの普及は怪談の伝達速度を爆発的に加速させた。そこに大きく寄与したのが2ちゃんねるをはじめとする匿名掲示板の存在だ。世間で広く囁かれる都市伝説とも、職業作家の発表する実話怪談とも違う、複雑かつ独自のリアリティをもつ「ネット怪談」が生まれたのである。

「ネット怪談の現場」を探すのはたいへん難しい。匿名投稿者による創作だとしたら、そもそも現場が存在するわけがない。しかしまた、それが創作作品だとしても、「実話」として提供・享受されている以上、やはりモデルとなる場所が存在する場合が多いのも事実だ。
 そもそもネット怪談の元祖「杉沢村」にしてからが、青森に実在する廃集落をモデルとしていた。その杉沢村伝説の検証から始まったネット怪談史は多様な発展を遂げていった。
 大まかに分ければ「物語作品」性と「リアル体験」性という、ふたつの軸の追求である。

「実況」と「まとめ」でネット怪談が加速

 それまで短文だったネット上の「怖い話」が、ひとつの完成した「怪談」作品として扱われるようになったのは「分からない方がいい」(01年)が発展した「くねくね」(03年)の功績が大きい。田んぼの向こうでクネクネと動き、見たら頭がおかしくなるという謎の物体(妖怪?)「くねくね」の怪談にはいくつかのバリエーションが生まれ、それらは図らずもネット怪談語りの基礎をつくる共同練習ともなっていった。ちなみに私も、当時「くねくね」の1バージョンを書き込んだという人物を知っている。
 ただ、これらの報告では現場もバラバラであり、そもそも場所性が重視されていないため、現場特定は無理である。

 一方、リアル体験路線の嚆矢といえば、「本当に危ないところを見つけてしまった(略して本危)」(04~07年)「きさらぎ駅」(04年)であり、こちらは場所性が重視されている。前者は岡山県の廃墟への突撃レポートであり、数年(!)に渡って現場や行方不明者の探索が続くというインタラクティブな盛り上がりを見せていく。

 後者の「きさらぎ駅」はいわゆる異世界探訪ものだ。電車を乗り過ごし、見知らぬ「きさらぎ駅」に降り立った投稿者。ホームにはだれもおらず、電車が来る気配もない。ここで革新だったのは、投稿者が2ちゃんねるオカルト掲示板にリアルタイムで書き込み、4時間に渡って相談しつづけたことだ。スレッド住民のアドバイスを受けながら駅の外に出てみるも、周囲には草原と山があるばかり。仕方なく線路の上を歩いていく投稿者だったが、そこには……。
 すべて読むのに数時間はかかる大長編「本危」が注目されたのは、当時に流行りはじめた「まとめサイト」の効力が大きい。新参者がすぐに全体を把握できるまとめサイトが話題を大きくしたのは、同年の「電車男」(04年)とも共通している。そしてネット環境の発展・普及は、携帯電話からの実況も可能にした。なにしろ異世界からリアルタイムで投稿者と観覧者とのやり取りがなされるのだ。その奇妙な先進性が「きさらぎ駅」を実況怪談の古典とせしめた。

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